引き裂かれた恋人を捜す大聖女は生贄結婚をすることになりました! ~実は私がスパダリ大聖女といわれているのは、ご存知ないですよね?~

「お静かに。どうか、騒がずにご同行いただけますでしょうか」

「ほう、まさかここまで古典的な手でくるとは――」

 もう少しひねりのきいた方法にするかと期待していたが。後ろにいるのは、声からして男のようで、背中に当てているのはおそらく剣の柄だろう。

(特に怖くはないが、相手の目的を知りたいな)

 こちらを攫うつもりなのか、それともほかの場所で殺そうと狙っているのか――。

「わかった」

 そう短く返せば、相手が催促するようにアレッシェラの背中を柄で押す。歩かないと、これを抜くという脅しなのだろう。

 どこに向かわせようとしているのか。

 庭の端を歩くと、時々短く「曲がれ」とか「左だ」と指示をしてくる。

 周囲から人の気配がなくなっていく。みんな前庭に集まっているから、そこを離れた別館への道には誰もいないのだろう。

 人気のなくなった庭を歩き、緑の葉を広げるホオノキが並んだ小道を抜けた先で、男は急に足を止めた。

「止まれ」

 その言葉に前を見ると、小道の先にあるひっそりと枝に覆われた場所に椅子があるではないか。

(ほう、女性か)

 見えた座っている姿に、瞬きをする。隣には背中を向けた男性がいるようだ。

「連れてきたぞ」

 その声に、女性の視線がこちらを向き、側にいた男性も振り返る。男の海のように青い瞳がアレッシェラを見つめた。

「アレッシェラ様――」

 記憶にある顔だ。覚えのある姿に咄嗟に目を見開く。

「ダリオ殿下――」

 婚約者候補の自分ではなく、ほかの女性をはらませて行方をくらました縁談相手がなぜここにいるのか。突然の出現に、アレッシェラは瞬くことも忘れて二人の姿を見つめた。