引き裂かれた恋人を捜す大聖女は生贄結婚をすることになりました! ~実は私がスパダリ大聖女といわれているのは、ご存知ないですよね?~

(ひょっとして、これも敵の仕業か?)

 誰かは知らないが、先ほどは感じた視線が、いつの間にかいなくなっている。

(陽動かどうかはわからないが――)

 余程、レナールとアレッシェラのデートを邪魔したいのだろう。

 とりあえず、敵の動きを見るかと周囲の様子を眺めながら思っていると、突然横から白い手を掴まれた。

「あなたも、急いで逃げてください。ここも火が来ないかわかりません!」

 驚いて見つめると、レナールが必死な顔で、手袋に包まれた手で、ぎゅっとアレッシェラの手を握って走り出す。

「レナール様」

 初めてだ。レナールが、自分からアレッシェラの手を握ってくれたのは。

「煙だけでも有害なものがあります! すぐに外に出ないと」

 皆さんも――と言いながら、煙の中で、アレッシェラがはぐれないように手を掴んでくれる。

 手袋をはめているから、体温が伝わってくることはない。それでも、心が温かくなった。

 目を上げて、前を走るレナールの背中を見つめる。思っていたよりも広い。

 ずっと――ソ・レイジェラで人々を守る大聖女となってから、こんなふうにアレッシェラの心配をしてくれた人はいなかった。

 崇拝する大聖女としてもちろん大切にしてもらってはいるが、こんなふうに普通の一人の女性として、腕を掴んでくれる者なんて――。

 なんだろう、ずっと昔に忘れていた、ただの少女だった頃の感覚が戻ってくるようだ。