引き裂かれた恋人を捜す大聖女は生贄結婚をすることになりました! ~実は私がスパダリ大聖女といわれているのは、ご存知ないですよね?~

「あら、この布なんてステキね。同じ染め物でドレスを作りたいから、レナール様この工房にご案内をしてくださるかしら」

 その娘は、モーリス様に任せてと、しなだれるような視線でレナールに近寄っている。

 もう一度夫人がそっと手を伸ばそうとして、さりげなくレナールが一歩後ろに下がった。

「いいですよ。虫をすりつぶして、染められている布ですが」

「虫……」

 思わず、テディス公爵夫人の動きが止まる。

「ご興味がおありならば、館の者に案内をさせますよ。染める布地は絹工房で作れますし」

「なぜ、虫で揃える……」

 思わずアレッシェラが、レナールのにっこりとした笑みに呟いてしまう。それにモーリスが横から微笑みながら声をかけた。

「では、柄は、蜜蝋で作られてはいかがでしょうか。そうすれば、最高のコーディネートになること間違いなしです!」

「ちょっと! なんで、私のドレスを虫づくしにしようとするのよ!」

「いえいえ、夫人の好みならば尊重しなければと思いまして」

「勝手に虫マニアにしないで!」

 夫人が叫んでいる間にも、モーリスは笑顔で、こそっとこちらに耳打ちをしている。

「夫人のことは俺に任せろ。そちらは、せっかく先ほど肩を抱くところまでいったんだ。この調子で頑張れ」

「兄上、見た内容を勝手に脚色しないでください」

「なにを言う。初めてのデートで、お前が肩に手を置くところまでいったんだ。俺はアレシナ嬢の恋を全力で応援するぞ」

「俺ではないのですか!?」

「お前に任せていたら、俺が年寄りになってひ孫ができても結婚せん」

 だから、よろしくとアレッシェラに向かって、指をぐっと立てている。

「ちょっと、なにをこそこそと話しているのよ」

 一人残されていたテディス公爵夫人が、いらいらとして声を張り上げる。

 その時だった。きゃあああと叫び声が聞こえる。

 振り返ると、廊下の奥のほうから白い煙が流れてくるではないか。

「火事だ!」

 その言葉に、アレッシェラは目を見開いた。