引き裂かれた恋人を捜す大聖女は生贄結婚をすることになりました! ~実は私がスパダリ大聖女といわれているのは、ご存知ないですよね?~

 先ほどよりは減ったが、やはりまだ人混みの中から視線を感じる。

 どこからだろう。探るが、見学に来ている人の数が多すぎる。

 アレッシェラが視線を逸らした一瞬の間に、テディス公爵夫人がレナールの腕を甘えるように両手で取った。

「本当にお騒がせしてごめんなさい。もうこんなことをしないように、レナール様にご案内をしてもらってもいいかしら?」

 そう言うと、掴んだレナールの手を自分の豊満な胸に押しつけるようにしているではないか。見上げる瞳は、ひどく甘やかで媚びを含んだものだ。扇情的な眼差しに、レナールが急いで手を振りほどこうとする。

「テディス公爵夫人、それは、困ります。密着しすぎているので離してください!」

「あら、いいではありませんか。私もここの客人ですわよ。その小娘の腕を取って案内されるのならば、ぜひ私も同じもてなしをしていただきたいわ」

「いいですとも、もちろん」

 そう返事をして、腕を差し出したのは、子供を見送ってから振り返ったモーリスだ。

「俺が直々に公爵夫人のおもてなしをいたしましょう!」

 素晴らしい空気の壊し方だ。夫人が醸し出していたなまめかしさをともなった雰囲気が、その笑顔に一瞬で崩されている。

 その隙に、慌ててレナールがテディス公爵夫人の胸から腕を引き抜いた。アレッシェラの時と似ているが、逃げ方は完全に全力だ。

 レナールの腕に逃げられて、テディス公爵夫人は声をかけたモーリスに、不満そうに腰に手をあてながら顔を向けた。

「ちょっと、私はレナール様にもてなしてもらいたいと言ったのよ」

「辺境伯爵長男の俺ではご不満でしょうか?」

「あのね、私はレナール様に興味があるの。それならば、その相手と二人きりになりたいのは当然でしょう?」

 言外に邪魔をしないでと匂わせると、すぐに近くに展示されていた布へと目をやっている。