「今日のお仕事はこちらではないはずでしょう? どうして、今ここにおられるのかと思いまして」
見上げてくるレナールの眼差しに、モーリスは目をパチパチとさせている。そして、腕を組むと笑顔で口を開いた。
「今日の仕事ならば、すべて明後日に振り替えた。なにしろ我が弟が、ついに人生初のデートをするんだからな! 兄ならば、成功するように手助けをするのが、当たり前だろう!」
「つまり、最初から尾行をしていたと」
はあとレナールがため息をつく。
「この博物館に、いつから音楽が流れるようになったのかと思っていれば……」
そう兄の後ろにいるバイオリンを持った楽士を見ながら呟く。
「デートに雰囲気は重要だろう!? より甘さを増して、互いの気持ちの高まりを狙えば、難攻不落のお前だって雰囲気に流されるかもしれないじゃないか」
「一応血の繋がっている者相手に、女性と間違いを犯せという人を初めて見ました」
「違う! 鉄壁の要塞も蟻の一穴からというだろう! だいたいそんなに美しい女性と一緒にいて、間違いを犯したくならないというほうが、男としては不健全だぞ!?」
「はいはい――不健全な鉄壁でいいですから」
そう軽くいなすと、レナールは再び子供たちへと視線を向けている。
