街の中心から少し東に向かったところで、大きな門へ入ると、美しい葉を輝かせた木々たちが、石造りの建物を取り巻くようにして包んでいる。
入り口の上には、大きな文字が刻まれ、それをアレッシェラは馬車から見上げながら呟いた。
「グラフォーレ博物館――?」
「はい、領内の見所を案内してほしいとのことでしたので」
先に降りたレナールが、手をアレッシェラに差し出しながら、にっこりと笑う。その瞬間、相手のこの笑みの意味がわかった。
(ほーう、考えたな……!)
おそらく、こちらの目的がレナールと親密になるためと悟ったからだろう。そのために、父親の名を汚さないもてなし場所で、かつデート先としては、あまり馴染みのない場所を選んだのに違いない。
「俺は女性には疎いですから。楽しめそうな場所は思いつかないので、ご要望に一番近いこちらにいたしました」
「たしかに、グラフォーレを紹介するにはもってこいな場所だ。レナール様ご自身で考えてくださったのか?」
腕を組みながら見上げて尋ねると、レナールは柔らかく笑っている。
「ええ、俺が考えました。アレシナ様をここにご案内することを、今朝ニコルや兄に話すと、もっと人の少ない湖などを勧められましたが……それでは、風景しかご覧になれないでしょう?」
にっこりとした笑みに、アレッシェラの闘志が燃やされる。
(実にいい性格だ……!)
「たしかにここならば、グラフォーレのいろいろなことがわかる」
「ええ、ですが古いものも多いですので、退屈でしたら、いつでもおっしゃってください。どうか俺にご遠慮なさらず」
昨夜の言葉に対して、そのまま返しているのだとわかる。
(頑固者というか、こいつかなり強く執着するタイプだろう!?)
昨夜やられたことを、しっかりと引きずっているようだ。だが、あいにくと、こちらもこれで引き下がるつもりはない。
だから、にこっと笑った。
「ああ! そういうものは大好きなので、ぜひ一緒に見にいこう!」
そういえば、相手は目を丸くしている。
「あのっ……! 古いとは言っても、アンティークとか年代物の美術品とかではないのですよ!? ただの古い蔵書だったり、昔の生活道具だったり」
「それなら、なおさら見たい! ぜひ一緒に入ろう!」
そう話すと、相手はさらに面食らったようだ。
もちろん、レナールに諦めさせないためではあったが、それらに興味があったのも事実だ。
いそいそと弾むように、アレッシェラはレナールと入り口へと向かった。
