なんだろう、名状しがたい感覚だ。懐かしいような、泣きたくなるほど、なにかがこみ上げてくるような――。名前のつけようもないその感情に、一瞬レナールの姿に瞳を奪われていると、相手もなにかを感じたのか、同じようにアレッシェラを見つめたまま、言葉を途切れさせている。
ふとレナールの口が動いた。
「君……やはり、もっと昔に、どこかで出会ったことがある……?」
その言葉にレナールも同じ感覚に襲われていたのだとわかる。だが、次の瞬間、自分が言ったことに気がついて、ハッとした顔をすると、一度頭を横に振った。
「いや、そんなはずはないな。俺はこの間までこの国から出たことがなかったんだし、第一、君みたいな印象的な人に出会っていたら忘れるはずがない」
ようやく静かになったあたりの様子に、アレッシェラの後ろにいたエディットが口を開いた。
「レナール! この子ったら、やっと帰ってきて……。アレシナ様はずっとお待ちくださっていたのですよ」
「アレシナ……」
ぼそりとレナールが名前を繰り返した。そして、母に向き直る。
「母上遅くなり申し訳ありませんでした。ですが、前にも話したとおり、俺は結婚する気はないのです」
君にも、とアレッシェラのほうを向く。
「ここまで来てくれたのに悪かったね。でも、今言ったとおり、俺は誰とも結婚する気はないから……。もしあの時のことを恩に感じて、父からの婚約の申し込みを受けてくれたのなら、気にしないで」
そして、再度アレッシェラに向けた視線で、エディットを庇った時繁みに引っかかった手に、爪ほどの細かな葉が、いくつもくっついているのに気がついたようだ。
「怪我をしているの?」
「いや――引っかかった時についただけだ」
「そう……悪かったね。すぐに水を用意させるから。もしも服も汚れていたら言って」
そう言いながらも、レナールの顔はホッとしたようになっている。その些細な表情の変化に気がついた。
「先ほどの魔力は――」
「ああ、あの程度のしか使えないんだ。初級の防御魔法だけれど……」
(えっ!?)
思わず目を見開いた。
(いや――たしかに今のもこの間のも初級魔法だったが……それにしては、なにかがおかしいような――)
思わず見つめたが、レナールは、これ以上はアレッシェラとは目を合わせずに、背中を向けようとする。
「これ、レナール。お待ちなさい!」
慌てて側のエデッィトが止めようとしている。しかし、レナールはそのまま歩き始めていく。ただ、一瞬アレッシェラのほうを振り返った。
「母上、ご令嬢を頼みます。俺は、ヘスーオンがどこから入り込んできたのかを調べてきますので」
そう言うと、そのまま歩いていく。その後ろで、アレッシェラは先ほど感じたことを、ただジッと思い返していた。
