「だから、どうか出迎えなかったレナールのことは怒らないでやってくださいね。あの子は、今までに来たお相手が、全部うちの援助がほしい親に、強引に連れてこられた娘たちばかりだったものですから……」
なるほどと納得した。どうやら、ここまでに縁談が皆無だったわけではないらしい。生贄婚――そう言われるぐらいには、花嫁を人身御供同然に差し出そうとした縁談があったようだ。
(だが、それでも頷かなかったと――)
道理で、ガレオがアレッシェラのあんな噂を聞きながらも、自分の息子との結婚を受けてもらえないかと申し込もうとしたわけだ。
(まあ、確かに私ならば、普通の人間から見たところの早死にの心配は薄いが……)
歴代の大聖女は、生まれる前に神々によって定められ、数百年という寿命を与えられている。これは、大聖女と、稀に生まれる人でありながら神の力を持つ神皇だけのものだ。
(とはいえ、これは、なかなか頑固な性格みたいだな)
真面目で女癖が悪くなく、他人の命のためならば、自分の幸せを諦めても意志を貫く――正直に言えば、かなり好ましいタイプだ。
(これで、夢の相手ならば、私としては喜ばしいことなのだが――)
そう心の中で呟きながら微笑む。
「心配は必要ない。私は、レナール様の話を聞いて、余計に興味をもったのだから」
そう話した瞬間、エディットの顔が嬉しげに輝いた。
「ありがとうございます! そうおっしゃってくださる方が現れるなんて!」
「本当に早死にするかどうかなんて、普通はわからないものなのだし」
そう話せば、よほど剛毅な性格と映ったのだろう。エディットがじんと感動したように、アレッシェラを見つめている。
「ええ、ええ……そうですわ。本当かどうかなんて、未来はわかりませんもの」
目元に薄く光った涙を指先で拭い、笑みを浮かべると、やがてもう一度いそいそと嬉しそうに歩いていく。
「こちらが奥の泉ですわ。ここには、幼い頃からレナールが世話をしている動物たちがいるのです」
そう話しながら到着した泉には、なぜか今日は動物たちの姿が見えない。代わりに、ひどくシンとした静けさが広がっているではないか。
「あら、いつもはたくさんの動物たちがいるのに……」
今日に限ってどうしてと、エディットが不思議そうに泉の周囲を見回している。だが、その時、泉を囲む深緑の繁みの中で、唸るような声が聞こえた。
ハッとして首を向けた瞬間、躍りかかってきたその姿に、咄嗟にアレッシェラはエディットを庇って手を広げる。
「危ない!」
