引き裂かれた恋人を捜す大聖女は生贄結婚をすることになりました! ~実はスパダリ大聖女といわれているのは、ご存知ないですよね?~

 口から言葉にするのも間に合わず、燃えさかる火柱にあらん限りの力で手を伸ばしたところで、はっとアレッシェラの意識は、目覚めた。

「……夢か……」

 瞼を開けた先には、大聖女の住まう部屋の石の天井が、穏やかな昼の光に照らされて白く広がっている。いつもどおりの澄んだ清浄な石だ。

 瞼を二三度瞬くと、アレッシェラはそこに向かって伸ばしていた自分の白い手のひらを握りこんだ。

「……これで、何度目だろう……」

 握った手を、パタンとうたた寝していた青いソファに落とし、窓の外に広がる空へと目をやる。幼い頃から繰り返し見てきた夢だ。今では、何度見たのかすら思い出せない。

「いったい、あれは誰なんだ――」

 記憶を探っても、夢の中で出てきた相手は、どうしてもわからない。

 金色の髪を垂らしながら、はあとソファに寝そべった姿勢でため息をついた時、部屋の白い扉が外から激しく叩かれた。

「失礼いたします! 大聖女アレッシェラ様」

 側近のルイサの声だ。いつもは物腰の柔らかい彼女が、今日はひどく慌てた声を出している。

「なんだ、騒々しい――」

 急いで扉を開けて入ってきたルイサに、紅紫色の瞳で軽く微笑んだ。

「そんなに慌てなくても、私は、今日はどこにも抜け出してはいないぞ」

 身を起こしながら、軽口を叩く。アレッシェラが上半身を起こすのと同時に、腰まである長い金色の髪がさらりと流れた。後ろの一部を大聖女だけに許された連珠で巻いてはいるものの、幸い頭の下にはなってはいなかったので、乱れずにはすんだようだ。うたた寝をしていたことがばれずにすむかと思いながら微笑むと、傍目には二十歳ぐらいのアレッシェラより、少し年上に見えるルイサの顔色は真っ青になっていた。

「ルイサ?」

 不審に思い尋ねると、彼女は両手を握りしめながら報告する。

「今、帝国の神官から知らせがありまして――。アレッシェラ様の婚約者候補であるダリオ殿下に隠し子の疑惑があるそうなのです!」

「なに!?」

 長年仕えてくれているルイサが震えながらもたらした突然の知らせに、赤紫色の目を大きく見張る。