スパダリ大聖女の生贄結婚 ~自分を不幸にしたという前世の相手を探しています~

 アレッシェラを乗せた馬車は、山麓から続く深い森の中を走っていた。軽快な音が響く馬車内で身に纏っているのは、貴族の令嬢が旅で使うようなドレスだ。品のいいラベンダー色のドレスで、年頃の貴族の娘にしか見えない。

 あのあと、ガレオの部下がレナールを見つけたものの、このまま旅を続けて、父親に迷惑をかけるのは嫌だと戻るのを拒んだので、アレッシェラのほうが領地に帰ったレナールに会いに行くことにしたのだ。レナールを狙っている闇魔法の使い手に大聖女とは気づかれない姿で。

 馬車の窓から外を見回せば、走っているのは昼間でも魔物が出そうなほどの鬱蒼とした森だ。

 このグラフォーレ辺境伯爵領は、アレッシェラがふだん住むソ・レイジェラ山から遠く離れていることもあり、このあたりでは魔物の出没が頻繁だと聞く。

 今の時代魔皇(まおう)と呼ばれる統率する存在はいないため、魔族の結束力はそれほど高くはないが、魔物が一体でも現れれば、人に害をなしてくる。

「ソ・レイジェラから派遣した神官が、この地にも加護を伝えているはずだが、山から離れているのでかなり力が弱まっているようだな……」

 外を覗きながら感覚を研ぎ澄ませば、森の中には剣呑な雰囲気をもったものたちがいる。狼や熊――ではない。なにか禍々しい気配を感じて、外出着を纏ったアレッシェラは、ぼそりと呟いた。

「グラフォーレ領は、かなり西の谷に近いですから。おそらく魔族もよく出没するのでしょう」

「西の谷か……」

 過去に魔皇が住んでいたといわれる地域だ。そのせいか、この大陸でも西の谷に近い場所ほど、魔物の出没が盛んになっている。

「その割には、今まであまりソ・レイジェラに嘆願のようなものはなかったな。話したグラフォーレ辺境伯は、この地の役目にふさわしい実力の持ち主だと見える」

 そう窓の外の森を眺めながら話すと、目の前に座っていたルイサは、少し不安そうな表情になった。

「ですが、私は心配ですわ」

「うん?」

 頬に手をあてながら呟く彼女に、軽く首を傾げる。