その言葉に相手も同じ感覚に囚われていたのだとわかる。だが、次の瞬間、相手は自分が言ったことに気がついたのだろう。ハッとした顔をすると、一度頭を横に振った。
「いや、そんなはずはないな。俺は、ここには初めて来たし。すまない、巻き込んで。とにかく、ここは危ないからすぐに逃げて!」
そう言ってアレッシェラを柔らかな草の生えた地面に下ろすと、受け止めてくれた相手は、また急いで走り始める。
「待って――」
咄嗟に呼び止めようとしたが、すぐに相手は森の中へと入っていく。
誰なのか。なぜあんな感覚に囚われたのか――。
それに使ったのは、落下の衝撃を弱める初級魔法なはずなのに、なぜか違う感覚に襲われた。
どうしても、このまま別れてはいけないような気がするのに、走っていく相手は、まったく足を緩めない。
そのまま森の奥へと駆け込み、木立の中に、背中が見えなくなってしまった。
「どこに……」
行ったのか――。見回すアレッシェラの後ろで、突然声が響く。
「レナール!」
聞こえた声に振り返れば、一人の男性が郊外の道を、遠くから走ってくるではないか。
「すみません、この辺に黒っぽい銀髪の青年はいませんでしたか?」
「それならば、今私といた青年だと思うが……。彼の知り合いか?」
尋ねると、おそらく四十代ぐらいの相手はアレッシェラの一般聖職者とは違う身なりに気がついたらしい。おずおずと答えてくる。
「はい、私は彼――レナールの父親ザディッド王国グラフォーレ辺境伯爵のガレオと申します。もしかしてですが、聖山ソ・レイジェラのお方ですか?」
(レナール――)
その名前を心で繰り返してから、頷く。
「ああ、私はソ・レイジェラの大聖女アレッシェラだ」
「おお、あなた様が――」
名乗った途端、相手の目が輝いた。
そして、突然地面に膝と両手をつく。
「どうか、レナールを伴侶にしてはいただけないでしょうか!?」
「は――!?」
あまりにも突然の話に、アレッシェラは見動くことも忘れて、その場に固まってしまった。
