引き裂かれた恋人を捜す大聖女は生贄結婚をすることになりました! ~実は私がスパダリ大聖女といわれているのは、ご存知ないですよね?~

「ニコル……?」

 現れた、長年仕えていたメイドの姿に、レナールが呆然としている。

「どういうことだ、どうしてテディス公爵夫人がニコルに……」

「どうせ両方偽名だろう。本物の公爵夫人は、あちこちを豪遊しているから、初めてここに来たと言っても疑われないからな」

 そのアレッシェラの言葉に、ニコルが肩を竦めている。

 そして、さらにぐにゃりと体が歪んだ。そこに現れたのは、鋭い牙と長い爪を持った禍々しい姿だ。

 顔や手の肌が異様に白く輝き、闇の中でもまるで光るかのようだ。

 光源などないこの空間でも、まるでぬめりを帯びた蛭のように輝くのは、彼女が魔族だからか。メイドにしては不似合いな赤い唇が、ゆっくりと弧を描いた。

「そうよ。まさか、今になってレナールと結婚してもいいという娘が現れるなんて。しかも、レナールの噂を知っていながらも、本人が婚約に前向きなんて思いもしなかったわ」

「だから、化けた体で、直接レナール様を食うことにしたのか」

「ええ、そう。前の大聖女に魔力を削られていたから、ニコルのふりをして、ずっと少しずつ吸っていたの。でも、やっと魔力が補充できたし、それならば、いっそ人間が魅力的だと思う姿で誘惑をして、全身の肌から命ごとすべて吸い尽くしてやろうかと思って。この姿では少し年上過ぎるから、昔見たあの女の姿を借りたのよ」

 本当は、手っ取り早く頭から丸呑みにしてもいいのだけれど、骨は歯触りが硬いからあまり好みではないしねえと、グルメのようなことを言っている。

「それなのに、まさか化けた私をふって、別の娘が部屋に来ているだなんて。なんて憎たらしい」

「夜這いを自分の専売特許だとは思わないことだ」

「驚かないところを見ると、いろいろ気がついていたみたいね。どうしてわかったの?」

「簡単なことだ。命を吸い取っているのなら、昔から近くにいたはずだ。そして、私との婚約話が出て、すぐにテディス公爵夫人が現れ、彼女が博物館で子供をけしかけて投げた石には毒が塗られていた。加えて、私がヘスーオンに襲われた時に、庭に行くようにと勧めたのはニコル、そして博物館に行くことをレナール様が話していたのもニコルだ。それらを繋げて魔族が絡んでいることを考えれば、一番可能性が高いのがそれだったからだ!」

「あら」

 これはしまったわという顔をしている。