ハッピー☆シャッフル ―ミラクル占いで事件解決しちゃいます?!―




 結局二匹の猫は、まとめて明日香の家に引き取られることになった。
 母親猫は身体の色から『ハイジ』と名付けられ、毎日オセロと仲良く走り回っているらしい。
 というわけで、かわいいストーカー騒動は一件落着!
 ――だけど、ここで終わらないのが現実なんだよね。
 その翌週にわたしたちを襲ったのが……恐怖の期末テストだった。
 わたしは直前で桐ちゃんに泣きつき、スパルタにたえたおかげでなんとかなったけど、明日香は……ダメだったみたい。答案が返ってくるたびに顔面蒼白になってた。
 ちなみに桐ちゃんは全教科ほぼ満点で、相変わらずの学年トップ。もう、すごすぎです、ハイ……。
 まぁ、結果はともかく、テストが済めば夏休みはすぐそこ!
 学校内は今、なんとなくウキウキ・ソワソワした雰囲気に満ちあふれている。
 そんな感じの今日。五時間目のこの時間。
 時ノ塔学園中等部の生徒、および教職員は、体育館にいっせいに集まっていた。今から生徒会主催の『定例報告会』が始まるのだ。
 この定例報告会は、毎月一回、行われる。教職員を含めた中等部の全員が参加する大事な行事だ。
 内容は、主に生徒会の活動報告。
 生徒の代表である生徒会長が議題に沿って話をして、わたしたち一般生徒がそれを聞く、というスタイルで進められる。
「うちの中等部、人数多いよねぇ」
 定例報告会の会場である体育館の中を見回しながら、明日香が言った。
 確かに多い。中等部の生徒だけで千人くらいかな。生徒だけでなく先生方も参加するから、体育館の中は満員状態だ。
 クラスごとにまとまっていればいいらしくて、同じクラスのわたしと明日香は、二人で列の後ろの方に並んで立っていた。
 しばらく待っていると、あたりにウィーンという機械音が鳴り響いた。
 発生源は、体育館正面の天井。そこから白いスクリーンが自動でするすると降りてくる。
 これは、定例報告会の名物『大スクリーン』だ。そこらの映画館に負けないほどの大きさで、わたしは見るたびにおどろいている。
 実は生徒会長は、体育館ではなく別の部屋で報告内容をしゃべるの。それをカメラで撮影しながら、この巨大なスクリーンに映し出すんだよ。
 ちょうどテレビの生中継みたいな感じね。生徒が多くて体育館が広いので、後ろの方にいても見えるようにという配慮みたい。
 モーター音が止まると、やがて体育館の照明が落とされた。静かだったスクリーンに、一瞬ザザッとノイズが走る。

『こんにちは、みなさん。生徒会長の四方堂司です』

 壁一面を覆う巨大な画面に、爽やかな笑顔がでかでかと映し出された。
「キャアアァァーー!」
「司サマあああぁぁぁぁっ!」
 前の方から黄色い歓声が上がる。
 歓声というか悲鳴というか……とにかく、すごい。ちなみにすべて女子生徒の声だ。
「出たー。四方堂ガールズ。今日も元気だねぇ」
 わたしの隣で明日香がぼそりとつぶやいた。
「何? その四方堂ガールズって」
「四方堂センパイの親衛隊だよ。その中でも特に過激な一派。暇さえあればセンパイを取り囲んで、定例報告会の時はああやっていつも、前の方を陣取って騒いでる」
 言われてみると、スクリーンに面した最前列は女子生徒で占められている。
 いくらファンとはいえ、徒党を組んで囲まれるなんて、四方堂先輩も大変だなぁ。お疲れ様です。

『では、今月の会議報告を始めます。まず、夏季休業中の各部活の施設利用についてですが……』

 そうこうしているうちに定例報告会が始まった。穏やかだけど聞き取りやすい声が、報告内容を読み上げていく。
 大きなスクリーンに映っているのは四方堂先輩の上半身だけ。制服の白シャツのボタンを今日もきっちり上まで留めて、腕には生徒会長の印である赤い腕章があった。
 背中の部分に椅子の背もたれのようなものが見えるので、どうやら座った姿勢のようだ。あと確認できるのは、バックに映り込んでいる白い壁くらいかな。
「これって、四方堂先輩はどこでしゃべってるの?」
 スクリーンごしに四方堂先輩の話を聞きながら、わたしは明日香にそっと尋ねる。
「ああ、放送室らしいよ。カメラとか中継の機材がそこにしかないから」
 放送室かぁ。わたしは入ったことはないけど、クラスに放送部の子がいて、どんな場所か聞いたことがある。
 ものすごく狭い上に、CDや機材がたくさんあるから、一人座るのがやっとなんだって。
 四方堂先輩は今その放送室にいて、大スクリーンにはリアルタイムの様子が映っているってわけね。
 ちなみに、会長以外の生徒会役員は、スクリーンの横に並んで控えている。わたしの位置からでもちらっと見えるけど、全員とっても真面目そうで、デキる人って感じ。

『――以上が今回の報告になります。ではこれで、定例報告会を終わります』

 四方堂先輩の話は順調に進み、定例報告会はつつがなく終了した。
 落とされていた照明が再び点灯し、スクリーンが元通り巻き上げられていく。
 体育館はたちまちざわめきでいっぱいになった。定例報告会は以上で解散。クラスごとの列がぽろぽろと崩れ、少しずつ体育館の出入り口へと向かい始める。
「教室戻ろっか、祈梨」
 わたしたちも人の流れに任せて歩き出した。――と、そのとき。

 ――ドドドドドドドドッ!

「きゃあああ、司さまあぁぁぁっ!」
「待って、司さまあぁぁぁああっ!」
「司さまあぁぁぁぁぁああっ!」
 ものすごい勢いで、何人かの集団が駆け出した。大勢の女子生徒が、塊となって体育館の出入り口へと突進しているみたい。
 さっき話題になった、四方堂先輩の親衛隊の人たちだ。
「動き出したね。四方堂ガールズ」
 明日香は女子生徒の大群を見ながらあきれ顔で言った。
「あの人たち、どこに行くの?」
「放送室でしょ。四方堂センパイが出てきたところを取り囲む気なんだよ」
「ああ、そういうこと……」
 いわゆる、出待ちってやつね。
「今日はもう、これで授業おしまいでしょ。四方堂センパイ、放課後もしばらく付きまとわれるだろうね」
 明日香の声には、四方堂先輩への同情の色が混じっていた。
 体育館から放送室まで、普通に行けば二分もかからない。おそらく四方堂先輩は放送室を出てすぐ、親衛隊の人たちに囲まれてしまうだろう。
「あたしたちはゆっくり戻ろうか」
「そうだね」
 四方堂ガールズの勢いとは対照的に、わたしたちはのんびり行くことにした。
「そういえばさぁ、いまだに、いないらしいよ」
 隣を歩く明日香が唐突に切り出す。
「いないって、何が?」
「次期生徒会長の、立候補者」
 ああ、確かもうすぐ生徒会選挙があるんだっけ。
 まだ会長の立候補は出てないんだね。四方堂先輩のあとだもん。なかなか難しいか……。
「どうなるんだろ。次の会長もイケメンだといいなー。見てるだけで癒されるから」
「あはは、明日香らしい」
 なんて話をしているうちに、わたしたちの教室に到着。
 室内では、すでに戻ってきていたクラスメイトたちがワイワイお喋りをしていた。
「さーて、帰ろっと。今日も家で柔道の稽古だ!」
 明日香は自分の席に立ち寄り、机の横にかかっているスクールバッグを手に取る。ポイントになっている大きなクマさんのマスコットがぶらんぶらん揺れた。
 わたしも帰りのしたくをしようと、自分の席に向かう。
「――いやぁぁあぁぁっ!」
 だが、突如として空気を切り裂くような大絶叫が教室中に響き渡った。
 あわてて振り向くと、明日香が張りつめた表情を浮かべて立ち尽くしている。
「どうしたの、明日香!」
 思わず駆け寄ったわたしに、明日香は震える手で何かを押し付けてきた。
 それは、不気味なほど真っ黒な封筒だった。
 文庫本くらいの大きさで、隅の方に白いインクで何か文字が書いてある。
「えーと『本日、十八時。Mr.Cronus.』か。ミスター・クロノス……って、えっ?!」
 クロノスって、あの……噴水前にある、スーパーヒーローの像のことだよね?!
 ということはこれ、クロノス様からの手紙なの?!
「中、見るよ?」
 明日香に断ってから、わたしはそっと封筒を開ける。
「…………!」
 出てきたものを見て、息を呑んだ。
 入っていたのは二枚のタロットカード。描かれていたのは……
「『運命の輪』と『塔』」
 わたしはつぶやきながら顔をしかめた。
 一枚は車輪のカード。そしてもう一枚は――雷に打たれる、おどろおどろしい塔のカードだ。
 明日香が震えながらすがりついてきた。
「祈梨、この塔のカードって『災い』って意味……なんだよね?」
 前に明日香を占ったときにも出た、このカード。
 そのときは『過去の出来事』を意味していたから、とくに深刻ではなかったんだけど。でも、今回は……。
「どういうこと? 何であたしのカバンにこんなものが入ってるの?! イタズラ? それとも……殺人予告?!」
「明日香! 落ち着いて!」
「もうやだ……」
 わたしは震える小さな肩を、なだめるように抱いた。
 でも、そうやって明日香を支えながらも……わたしの視線は、不気味な黒い封筒と二枚のタロットカードに強く吸い寄せられていた。