ハッピー☆シャッフル ―ミラクル占いで事件解決しちゃいます?!―




「四方堂先輩が、クロノス様、だったんですか――?!」
 じゃあ、今までみんなを助けてたのは四方堂先輩だったってこと?
 ラケットをなくした男子や、成績が上がらなくて困っていた女子も、みんなみんな、四方堂先輩が助けたの?!
 目の前の出来事が信じられなくて、わたしは何度も何度もまばたきする。
 しかし四方堂先輩はいともあっさりと言いきった。
「そうだよ。僕がクロノスだ」
「なぜ、先輩がこっそり人助けを……?」
「それはね、僕が生徒会長だからさ。生徒会長とクロノスは、表裏一体の存在なんだ」
「表裏、一体……」
「生徒会長の仕事が表なら、クロノスとしての活動は裏。クロノスは、困った生徒の悩みを解決するために、この学園に引き継がれてきた秘密の存在なんだ」
 古い時計塔の上部を移築してできたこの部屋。
 広さは十畳程度で、あまり広くはないけど、隅の方に大きな机と本棚が一つずつあった。本棚の中には、何やらファイルのようなものが入っている。
 窓の代わりに時計がはまっているので外からの光は一切入ってこず、天井に一つだけついている電球が、かろうじてわたしたちを照らしていた。
 その明かりの下で、四方堂先輩はゆっくりと話を続けた。
「僕らの年代だと、大人に言えない悩みとか、友達にさえ相談できない困りごとがあったりするだろう? そういう生徒の不安を取り除き、円滑な学校生活を送ってもらおうと考えたのが、時ノ塔学園中等部の初代生徒会長だ。彼は時の神クロノスの名を借り、正体を隠して人助けを始めたんだ。……以来、生徒会長になった者はひそかにクロノスの名も継ぎ、秘密の役目を担ってきた」
「どうして正体を隠してるんですか?」
 いいことをしてるんだから、堂々と名前を出してもいい気がする。
「それは、誰だか分からないほうが相談しやすいこともあるからだよ。重い悩みほど、全く知らない人に打ち明けたくなるものだからね」
「じゃあ、じゃあ、明日香のカバンに入っていた黒い封筒は、四方堂先輩が用意したんですか? あと……あと……!」
 疑問が次々と湧いてきて、もう、うまく言葉にならない。
「これ以降は、僕じゃなくて、彼に聞こう」
 四方堂先輩はわたしを押しとどめ、少し後ろに視線を向けた。
 え、カレって、誰?
「二年F組、鷹村桐哉くん」
 先輩の言葉を聞いて、桐ちゃんの存在を思い出す。
 そういえば、一緒にここに来たんだった。さっきからずっと黙りっぱなしだったから、ちょっと忘れかけてたかも……。
「何だよ、四方堂」
 その桐ちゃんは相変わらずの不愛想だった。メガネの下の目をぎゅっと細め、四方堂先輩をぎりっと睨みつける。
「鷹村くん。君は、僕がクロノスであり、なおかつ黒い封筒の差出人であることをあらかじめ予想していたようだね。どうして分かったのか教えてくれないかな。君の推理が聞きたい」
 すると、桐ちゃんは銀フレームのメガネをすっと押し上げた。
「……推理なんて、俺はそんなたいしたことはしてない。簡単なことだ。定例報告会の間に夏目のカバンに黒い封筒を入れられたのは、四方堂、お前だけなんだよ」
「えぇっ、どういうこと、桐ちゃん!」
 わたしは桐ちゃんにすがりつくようにして尋ねた。
 明日香のカバンに封筒を入れられたのは四方堂先輩だけって……そんな。
「嘘でしょう? 四方堂先輩だけは無理だよ。だって先輩はあのとき、ずっと一人でしゃべってたんだよ?」
 明日香のカバンに黒い封筒が入れられた時間は分かっている。五時間目に行われた定例報告会のときだ。
 だけどその時間、四方堂先輩はずっと放送室にいて、全校生徒がそれをスクリーンで見ていた。定例報告会を抜け出して封筒を入れにいくなんて、不可能なはず……。
 わたしが頭の中で整理していると、四方堂先輩自身がさらにこう補足した。
「ちなみに、僕は放送室に入る直前まで、生徒会運営の件で先生と話をしていた。放送室から出たあとは、すぐに何人もの女子生徒たちが押し寄せてきた」
 四方堂先輩の言う女子たちって、例の四方堂ガールズのことだよね。確かに、彼女たちは隙あらば先輩を取り囲む勢いだった。
「僕が一人になったのは、定例報告会でしゃべっていたあの時間だけだよ。その状態で、僕に何ができるというのかな」
 四方堂先輩の表情は穏やかだけど、その口ぶりはどこか挑むような感じだった。
 桐ちゃんはそれに全くひるむことなく、先輩を見すえる。
「その定例報告が、生中継じゃなくて録画だったとしたら?」
「録画?!」
 わたしの口からおどろきの声が飛び出した。なんかもう……さっきからこればっかり。
「四方堂が一人になれたのは、定例報告をしている間だけだ。だが逆に考えれば、その時間『だけ』は教師や取り巻きの女子の目から完璧に逃れられる。女子は全員スクリーンに見入っているし、教師も用事を言いつけたりしないからな。おまけにしゃべった内容はただの報告。決まりきったことを話すだけなら、事前に収録しておいても問題ない」
「……面白くなってきたね。続けてよ、鷹村くん」
 四方堂先輩は、言いながらわずかに首を傾けた。色素の薄い髪がサラリとゆれる。
「ああ、続けるさ。……四方堂、お前はあのとき、生でしゃべっていると見せかけて、事前に録画しておいたブイを流した。そうしておいて放送室を抜け出し、夏目のカバンに黒い封筒を仕込みにいったんだ!」
 桐ちゃんは力強く断言した。
「確かに、鷹村くんの推理は筋が通っているね……」
 四方堂先輩は一瞬目を伏せる。しかしすぐに顔を上げて、また優雅な笑みを浮かべた。
「だけど、証拠があるのかな。僕が録画のブイを使ったっていう証拠が、ね」
 わたしはぐっと息を呑み込んだ。
 桐ちゃんが言ったことに矛盾はない。その理屈でいけば、四方堂先輩は明日香のカバンに封筒を入れることができる。
 だけど、証拠を出せなんて……ムリなんじゃ……。
「証拠ならある」
 わたしの心配をよそに、桐ちゃんははっきりとそう言いきった。すぐさま制服のポケットに手を入れて、そこから何かを取り出す。
 出てきたのは真っ赤な布……例の、生徒会長の腕章だ。
「コイツはこの学園の生徒会長が代々受け継いできた、世界に一つしかないシロモノだ。定例報告会のとき、スクリーンに映った四方堂もこれをつけていたな」
 桐ちゃんが同意を求めるようにわたしの方を見る。
 わたしは映像を思い出しながらうなずいた。確かに定例報告会のとき、四方堂先輩はきっちり腕章をつけていた。
「だが、それはおかしいんだ。今日の昼休み……つまり定例報告会の直前に、この腕章は破損した。それから放課後まで、保健の鈴木先生が持っていたんだよ。破れた部分の修繕のためにな!」
「あっ……!」
 わたしは手を口でおおって、目を見開いていた。
 頭の中にいろいろなことがひらめいて、一気に脳内が動き出す。
「四方堂。お前は昼休み以降、この腕章をつけられなかったはずなんだ。だが五時間目にスクリーンに映ったお前の腕には、これがきちんとあった。つまり、あのときスクリーンに映っていたのは、腕章が破損する前に撮っておいた映像だったんだよ」
 言い終えると、桐ちゃんはヒュン、と腕をしならせた。
 真っ赤な腕章が放物線を描き、四方堂先輩の手の中に収まる。
「鈴木先生から預かった。補修は済んでるそうだ。返しておく。大事なものなんだろ?」
 これは決定的な証拠だ!
 わたしはそう思ったけど、腕章を受け取った四方堂先輩の顔は……相変わらず穏やかだった。
「この腕章が破損したのは事実だ。そうだね。僕は確かに、定例報告会のとき録画しておいたブイを流したよ。だけど……まだ決め手に欠ける」
「どういうことだ」
「鷹村くんが証明したのは『定例報告会の間、僕が自由に動けたこと』だけだ。『僕が夏目さんのカバンに何か入れた』ということにはならない。どうかな」
 決定的な証拠をつきつけたと思ったのに、新たな反論が出された。わたしはぎゅっと拳を握って、桐ちゃんの顔をのぞきこむ。
 桐ちゃんは一度溜息をついてから、顔をしかめた。
「まだしらばっくれる気かよ。なら、こういうのはどうだ? 『四方堂だからこそ、夏目のカバンを狙ってしまった』という理論だ」
「説明してくれるかな」
 四方堂先輩は簡潔に促す。
「黒い封筒の中身はタロットカードだった。だが、もし受け取った相手がタロットの素人なら、意味不明のイタズラだと思って捨てるだろう。夏目はカードの意味を少しは知ってたが、それはたまたま事前に聞いていたからだ。本来そこまで詳しくない」
 それもそうだ。
 わたしが黒い封筒を見てただごとじゃないと思ったのは、中に入っていた『塔』のカードが『災い』を意味していると知っていたから。
 でもタロットに疎い人だったら、意味が分からなくて、見ただけで捨てちゃうかもしれない。
 現に、担任の先生はただのイタズラだって言ってたし。
「つまり、夏目にあれを届けても意味がない。あの封筒は、もともと夏目に宛てられたものじゃなく、別の人間……タロットカードに詳しい人物に向けられていたんだ」
 ん? タロットカードに詳しい人物? それって、誰だろう。
 ……と、わたしが首をかしげたとき、桐ちゃんが突然、くるりと振り返った。
「祈梨、お前だよ」
「――へ? わ、わたし?」
「この学校で一番タロットカードに詳しいのは祈梨だ。祈梨のタロット占いはよく当たるって評判になってるからな。タロットカードを送りつけるのに、これ以上ふさわしい人物はいない」
「なっ、え、わたし?! ちょっと待って、それ、どういう……」
 まさか自分の名前が出てくるなんて思ってなくて、わたしはパニックになりかけた。
 四方堂先輩がスッと片手を挙げて、そんなわたしの動きを制する。
「鷹村くんは、僕が本当は綾川さんに封筒を渡すつもりだったと言うんだね? ではなぜ僕は、綾川さん宛ての封筒を夏目さんのカバンに入れたのかな」
「それは単純に、間違えたからだ」
 桐ちゃんは即答した。自信たっぷりに。
 四方堂先輩は黙ったまま、目つきで続きを促す。
「……四方堂。お前は夏目のカバンを、祈梨のカバンとカン違いしたんだよ。事前に廊下で、夏目のカバンを持って歩いてた祈梨を見たせいでな」
「あぁ、え、あのとき――?!」
 わたしの脳裏に、少し前の光景がよみがえる。
 明日香が倒れた日、確かにわたしは明日香のカバンを持ったまま四方堂先輩とぶつかった。
 じゃあ、あのとき四方堂先輩は、わたしが自分のカバンを持っていると思い込んだということ……?
「夏目のカバンには目立つマスコットがついてる。定例報告会のときに放送室を抜け出した四方堂は、マスコットのついたカバンを祈梨のカバンだと思って封筒を入れた。マスコットが印象的すぎて、カバンに書かれた名前を確認しなかったんだ」
 明日香のカバンにつけられているクマのマスコット。あれはかなり大きい。いい目印になるだろう。
「ゆえに、タロットカード入りの封筒は、本来は祈梨に宛てたものと推測される。それが夏目のカバンに入っていた。祈梨のカバンを夏目のものとカン違いする人間は……四方堂、お前だけだ。封筒をよこしたのは、お前しかいない!」
 桐ちゃんは人差し指をまっすぐ前につきつけた。
 その指先は、真実を指し示していた。四方堂先輩、その人を。

 ――パチパチパチパチ………。

 しばらくの沈黙ののち、狭い部屋の中に高らかな拍手が鳴り響いた。
「お見事。さすが学園一の秀才、鷹村桐哉くんだ」
「ふざけるな。四方堂、もう言い逃れできないぞ」
「うん。素直に認めるよ。君の推理は正しい。僕は録画のブイを用意して自由時間を作り、綾川さんのカバンと間違えて夏目さんのカバンに黒い封筒を入れたんだ」
 ついに白旗が挙がった。
「ええっ、じゃあ本当に四方堂先輩が………」
「おい四方堂。『十八時に、時計塔に来い』ってメッセージは、祈梨に向けたものなんだな。どうして祈梨を、こんな場所へ呼び出したんだ」
 わたしをさえぎって、桐ちゃんが低い声で言った。四方堂先輩をぎりぎりとにらみつけ、胸倉をつかむ。
「おっと。きちんと事情を説明するから、手荒な真似はやめてくれ」
 四方堂先輩は両手を軽く挙げて、無抵抗の意思を示した。桐ちゃんは舌打ちしながら突き放す。
 乱れてしまったシャツを整えてから、四方堂先輩はゆっくり口を開いた。
「僕が綾川さんをここに呼んだのは……鷹村くん。君を引っ張り出すためさ」
「は? 俺、だと?」
 メガネの奥で、桐ちゃんの目が点になっていた。
 ん? 四方堂先輩が会いたかったのは、明日香でもわたしでもなく……桐ちゃんだったってこと?!
 ああもう、何が何だか……一体どうなってるの?!
 頭を抱えたわたしの前で、四方堂先輩のカッコイイ顔に満面の笑みが浮かんだ。
「鷹村くん。生徒会長のコネクションを使って、君のことを調べさせてもらった。君は誰よりも理性的……言い換えれば、面倒ごとを避けるタイプだ。僕が呼び出しても、そう簡単には応じてくれないだろう」
『調べさせてもらった』っていう何ともオソロシイ台詞はひとまず置いといて……。
 多分先輩の言う通りだ。桐ちゃんなら、天下の生徒会長の呼び出しでも「面倒くさいからパス」とか言いそう。
「だが綾川さんを巻き込めば、必ず鷹村くんも一緒についてくると思った。そのへんのことも調べさせてもらったよ。何と言っても、鷹村くん、君は綾川さんのことが……」
「――待て!」
 桐ちゃんの鋭い一喝が、四方堂先輩を止めた。
「四方堂、それ以上言うなよ……言ったらただじゃおかねぇ」
「それじゃあ、僕のお願いを聞いてくれるかな。鷹村くん」
 四方堂先輩は何だか余裕たっぷりだ。
 桐ちゃんが弱みを握られているような感じに見えなくもないけど、急にどうしちゃったんだろう。
 それに今、わたしの名前が出ていたような、出ていなかったような……。
「……お願いって、何だよ」
 悔しそうに顔を歪める桐ちゃんに対し、四方堂先輩は爽やかスマイルを全開にした。
「簡単なことさ、鷹村桐哉くん。君に――次期生徒会長と、クロノスとしての役目を継いでもらいたい」
 その台詞は、あまりにもサラリと飛び出した。
 三秒後。
「えぇぇええぇぇぇぇぇぇぇ――っ?!」
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ――?」
 狭い室内に、わたしと桐ちゃんの叫びがこだまする。
 しかし、おどろくわたしたちを無視して、四方堂先輩は力強い演説を始めた。
「今年は生徒会長の立候補者がどうしても出なくてね。その場合、僕が次期会長を選ぶことになっている。もともと鷹村くんには注目していたんだ。時ノ塔学園中等部で、君ほど優秀な生徒はいない」
 間違いなく、四方堂先輩は桐ちゃんのことをものすごくほめている。
 だけど、当の桐ちゃんは口をヘの字にして硬直していた。
「黒い封筒の暗号は、後継者としての能力があるかどうか試すためのテストだったんだ。鷹村くんと綾川さんはこれを見事に解いた」
 ん? テスト……?
 おかしな封筒を送ってきたり、こんなところに呼び出したり。やたらと手が込んでいたのは、次期会長とクロノス様にふさわしいか試すテストだった……っていうこと?
「暗号を解いてここに来たことで、素晴らしい能力の持ち主であることが証明された。だから頼む。引き受けてくれないか。鷹村くん」
「――断る」
 バッサリ。
 桐ちゃんは四方堂先輩のお願いを容赦なく切り捨てた。
「生徒会長だと? そんな面倒なことをしてる時間はない。俺は勉強で忙しいんだ」
「……だろうね。そう言うと思っていたよ」
 しかし四方堂先輩は少しもヘコんでいなかった。
 それどころか、わたしの方を振り返り、何だか妙に熱い視線を送ってくる。
「綾川さん。君ならどうかな。やってくれないか」
「えぇっ?! わ、わたしはムリです。それに生徒会長って、二年生しか立候補できないんじゃ……」
「いや。そんな規則はないよ。能力さえあれば一年生でも可能だ。だから、やってくれないか、綾川さん。いや、祈梨ちゃん……と呼んでもいいかな?」
 四方堂先輩がつかつか歩み寄ってきて、その手でわたしの両手を包みこんだ。
 わぁ! 先輩、顔。顔が近いですっ。
 っていうか、近くで見ると、ますますカッコイイなぁ……。
「祈梨ちゃん。君のタロット占いの能力は、色々なことに役に立つ。その占いの力で、この学園を……僕を助けてほしい。引き受けてくれないかな。頼む」
 占いの力で、四方堂先輩を……助ける?
「わ、わたし……」
「おい、いい加減離れろ。このセクハラ生徒会長!」
 バッ!
 薪でも割るように、わたしと四方堂先輩の間に桐ちゃんが飛び込んできた。そのままわたしを後ろ手でかばい、四方堂先輩と向き合う。
「四方堂。俺はともかく、祈梨を巻き込むな」
「それは無理だな。だって仕方がないじゃないか。他に推薦できそうな人がいない。鷹村くん、君がやらないのなら、祈梨ちゃんに頼むしかない」
「だから気安く『祈梨ちゃん』とか呼ぶな!」
「どう呼ぼうと僕の自由だろう? こうなれば、僕は祈梨ちゃんのもとに毎日はせ参じて、心の底から熱心に説得させてもらうよ」
「はぁぁっ?! ふざけるのもたいがいにしろよ! あ――もう、分かった。俺がやる!」
 ばりばりと頭をかきむしりながら、桐ちゃんは叫んだ。
 え? え? それって……。
「き、桐ちゃん、今『やる』って言った?」
 わたしは、桐ちゃんの仏頂面を、おそるおそるのぞきこむ。
「ああ、やるよ。生徒会長だろうがクロノスだろうが、やってやる!」
「ありがとう、鷹村くん!」
 四方堂先輩は声を弾ませて、桐ちゃんを見つめた。
 いっぽうの桐ちゃんは、はた迷惑そうににらみ返す。
「生徒会長もクロノスも、俺が引き受ける。だから四方堂、お前は祈梨にこれ以上つきまとうな!」
「承知した。……ああでも、一つだけいいかな。祈梨ちゃん……いや、綾川さん」
「はい?」
 改まった感じで名前を呼ばれて、わたしは姿勢を正した。
「生徒会長とクロノスは表裏一体。表の顔、生徒会長は鷹村くん一人ということになるけど、裏……クロノスとしての仕事は、綾川さんにも手伝ってほしい」
「え、わたしもクロノス様に……なるんですか?」
「うん。さっきも言ったけど、綾川さんの占いは、きっとクロノスとしての仕事に役立つ。鷹村くんに協力してやってくれ。君たちは、二人で一人。――いいかな?」
 ――二人で、一人。
 それってつまり、わたしが桐ちゃんの助けになれるかもしれいないってことだよね。それなら……。
「はい! わたし、頑張ります!」
 わたしの返事を聞いて、四方堂先輩は今日一番の笑顔を見せてくれた。そして桐ちゃんにまっすぐ向き合い、片手を前に突き出す。
「それじゃあ、鷹村桐哉くん、これを君に」
 差し出されているのは、あの赤い腕章だった。この世に一つしかない、生徒会長としての証だ。
「この学園の生徒会長が、代々引き継いできたものだ。――確かに渡したよ」
「ああ」
 わたしはこのとき、はっきりと見た。
 四方堂先輩の手から、桐ちゃんの手へ。目に見えるものと、見えないもの。二つで一つの大事なバトンが、確かに伝わるのを。