――翌朝。
聖月学園。
「おはよー、凛空!」
「おはよ、麗愛」
いつも通り、凛空と一緒に教室へ向かう麗愛。
……のはずだった。
「……」
麗愛は、なんとなく落ち着かなかった。
昨日の夜。
月華嬢の集まりに来た黒月会。
そこで――
『連絡先、教えてくれへん?』
「……」
思い出すだけで、顔が熱くなる。
「……なんであんなこと言うんやろ」
麗愛は小さく呟いた。
「何が?」
「……え?」
凛空が隣から覗き込む。
「昨日のこと?」
「……!」
麗愛の顔が一気に赤くなる。
「ち、違う!」
「まだ何も言ってないけど?」
「……もう!」
凛空が楽しそうに笑う。
「連絡先交換したもんね」
「……うん」
麗愛はスマホを見る。
昨日交換したばかりのLINE。
そこに表示されている名前は――
【蓮翔】
「……」
「麗愛?」
「……なんでもない」
スマホをしまう。
別に。
好きとか、そういうんじゃない。
ただ――
『また会いたいから』
あんなことを言われたから。
今日、学校で会ったら。
なんとなく恥ずかしい。
そんなことを考えていた、そのとき。
「おはよ」
教室の後ろから声がした。
麗愛が顔を上げる。
「……!」
蓮翔だった。
一瞬、目が合う。
「……おはよ」
麗愛は小さく挨拶する。
「ん」
蓮翔も短く返す。
それだけ。
それだけなのに――
「……っ」
麗愛はすぐに視線を逸らした。
「麗愛、顔赤くない?」
「赤くない!」
「ふーん?」
「ほんまに赤くないって!」
凛空がニヤニヤする。
「昨日『また会いたい』って言われたもんね〜」
「凛空!」
「はいはい」
麗愛は頬を押さえる。
「……普通にしよ」
自分に言い聞かせる。
昨日の夜と今日の学校は別。
いつも通り。
そうすればいい。
――――――――――
一時間目。
先生が黒板の前に立つ。
「じゃあ、この問題……」
教室を見渡して。
「月城」
「はい!」
麗愛が顔を上げる。
「ここ、答えてみて」
「えっと……」
麗愛は問題を見る。
そして、すらすらと答えを口にした。
「正解」
「よかったぁ」
麗愛がほっと笑う。
その瞬間。
蓮翔がふと顔を上げた。
「……」
先生が呼んだ名前。
『月城』
その言葉が、妙に耳に残った。
――――――――――
放課後。
麗愛と凛空は一緒に教室を出る。
「今日どっか寄って帰る?」
「寄りたい!」
「じゃあこの前言ってたカフェ――」
「行こ行こ!」
二人で話しながら廊下を歩いていると――
「……」
少し前を蓮翔が歩いていた。
麗愛は思わず足を止めそうになる。
「……」
昨日の夜のことが、また頭に浮かぶ。
『連絡先、教えてくれへん?』
『また会いたいから』
「……」
麗愛は小さく息を吐く。
「なんでこんな緊張するんやろ……」
「麗愛?」
「……なんでもない!」
凛空と一緒に歩いていく。
その後ろ姿を、蓮翔は一瞬だけ見ていた。
――――――――――
そして。
蓮翔は教室へ戻った。
誰もいなくなった教室で、ふとスマホを取り出す。
昨日交換したLINE。
【月城麗愛】
「……」
蓮翔の指が止まる。
「月城……?」
さっき。
先生が呼んでいた名前。
『月城』
蓮翔はゆっくり顔を上げる。
頭の中に、昼間の麗愛が浮かぶ。
そして――
昨日の夜。
金色の髪。
淡い水色の瞳。
白とシルバーとピンクの特攻服。
月華嬢の総長。
「……」
蓮翔の目が少しずつ大きくなる。
名前。
雰囲気。
そして――
昨日からずっと感じていた、あの感覚。
「……あ」
蓮翔が小さく呟く。
「……やっぱり」
スマホの画面を見る。
【月城麗愛】
「……同じ子やったんか」
昼間の優等生。
そして――
夜の月華嬢の総長。
どちらも。
同じ、月城麗愛。
「……そら似てるわ」
蓮翔は思わず笑ってしまう。
昨日からずっと引っかかっていたものが、ようやく繋がった。
「……麗愛ちゃんやったんやな」
蓮翔はスマホをしまう。
けれど。
このことを――
今すぐ本人に言うつもりはなかった。
――――――――――
その頃。
麗愛と凛空は、カフェへ向かっていた。
「ねえ麗愛」
「ん?」
「昨日の人さ」
「……昨日の?」
「蓮翔って人」
「……!」
麗愛の顔がまた赤くなる。
「な、なに?」
凛空が笑う。
「ほんまに何もないの?」
「ないって!」
「でも連絡先交換したんでしょ?」
「……うん」
「しかも『また会いたい』って」
「……もう言わんといてぇ……」
麗愛は顔を隠す。
「麗愛、かわい〜」
「凛空のいじわる!」
二人の笑い声が響く。
――このとき。
そして蓮翔は。
もう知っている。
昼間の月城麗愛と。
夜の月華嬢の総長が――
同じ一人の女の子だということを。
二人の秘密は。
少しずつ、形を変え始めていた。
