――翌朝。
聖月学園。
朝の教室は、いつものように賑やかだった。
「麗愛、おはよー!」
「凛空、おはよ〜!」
麗愛は笑顔で凛空の隣に並ぶ。
「昨日の夜さ、何してた?」
「漫画読んでた!」
「また?」
「うん! 昨日買ったやつ、夜に読もうと思ってたのに、気づいたら寝ちゃってて……」
「それ、昨日の夜に読んでないじゃん(笑)」
「そうなの!」
二人で笑いながら教室へ入る。
麗愛は自分の席に鞄を置くと、窓の外を眺めた。
今日もいい天気。
授業が終わったら、凛空とカフェに行く予定。
「今日の放課後、楽しみやなぁ」
「新しくできたカフェでしょ?」
「そう! 期間限定のケーキあるんやって!」
「麗愛、絶対それ頼むじゃん」
「もちろん!」
朝からそんな話をしていると――
教室の後ろの方から、女子たちの声が聞こえてきた。
「黒崎くん、おはよ!」
「今日もかっこいいね」
「昨日も誰かに告白されたんでしょ?」
「えー、また?」
その中心にいるのは、黒崎蓮翔。
今日も何人もの女子に囲まれている。
「おはよ」
「うん」
「まあ、いつものことやろ」
蓮翔は慣れた様子で返している。
騒ぐこともない。
照れることもない。
ただ、いつも通りクールだった。
その様子を見ていた凛空が、
「……すごいね」
「何が?」
「黒崎くん」
「?」
「朝からあんな囲まれてる」
麗愛もちらっとそちらを見る。
「ほんまや」
「毎日あんな感じなのかな」
「すごいなぁ……」
麗愛はそれ以上気にすることなく、凛空との話に戻った。
「ねえ、カフェ何時に行く?」
「授業終わってすぐ!」
「楽しみ〜!」
その会話を、少し離れた場所で蓮翔が聞いていた。
――そのとき。
ふと、麗愛の方へ視線を向ける。
黒い髪。
柔らかい笑顔。
友達と楽しそうに話している姿。
「……」
蓮翔は、ほんの少しだけ目を細めた。
――なんやろ。
どこかで見たような。
昨日の夜。
月華嬢の中にいた、あの女の子。
金色の髪。
淡い水色の瞳。
笑ったときの雰囲気。
「……」
目の前の女の子と、昨日の子。
全然違う。
髪も違う。
目の色も違う。
服装だって、何もかも違う。
「……いや」
蓮翔は小さく笑った。
「んなわけないやろ」
そんな偶然、あるわけがない。
そう思って、視線を戻す。
なのに――
なぜか、頭の片隅に残った。
「……なんか似てる気がするんよな」
自分でもよく分からない。
ただ、少しだけ気になった。
━━━━━━━━━━━━━━
――放課後。
「麗愛、行こ!」
「うん!」
授業が終わると、麗愛と凛空は学校を出た。
今日は二人でカフェ。
駅の近くにある、最近できた人気のお店だ。
「わぁ……!」
店内に入った瞬間、麗愛の目が輝く。
淡い色のインテリア。
可愛い照明。
ショーケースには、色とりどりのケーキ。
「かわいい〜!」
「麗愛、絶対好きだと思った(笑)」
「全部食べたい……」
「さすがに無理(笑)」
二人で席に座る。
メニューを開く。
「どうしよう……」
「限定のケーキじゃないの?」
「それは絶対頼む!」
「じゃあ私はこれにしよ」
「飲み物は?」
「私はカフェラテ」
「麗愛は?」
「いちごミルク!」
「やっぱり(笑)」
注文を終えると、二人は顔を見合わせる。
「……でさ」
凛空がニヤッと笑った。
「なに?」
「恋バナしよ」
「えっ」
麗愛の目が輝く。
「恋バナ!?」
「好きでしょ?」
「大好き!」
「じゃあ質問」
「うん!」
凛空が少し考える。
「麗愛って、どんな人と付き合いたい?」
「えー……」
麗愛は真剣に考える。
「優しい人!」
「またそれ(笑)」
「だって大事やん!」
「他には?」
「一緒にいて楽しい人」
「うんうん」
「あと……」
麗愛は少し考えてから、
「麗愛の嫌なことしない人」
「へえ」
「あと、嘘つかない人!」
「それは大事」
「それから……」
「まだあるの?」
「ある!」
麗愛は指を折りながら話す。
「ちゃんと話を聞いてくれる人」
「うん」
「一緒にいっぱい笑える人」
「うんうん」
「あと……」
「まだあるんかい(笑)」
「顔も、できればかっこいい人がいい」
「出た(笑)」
「だって!」
麗愛が頬を膨らませる。
「少女漫画の男の子って、みんなかっこいいんやもん!」
「現実と漫画を一緒にしちゃダメですよー」
「分かってるもん!」
二人で笑う。
運ばれてきたケーキを見て、麗愛はさらに嬉しそうな顔をした。
「かわいい……!」
「写真撮る?」
「撮る!」
スマホを取り出す。
ケーキをいろんな角度から撮る。
「こっちの方が可愛くない?」
「ほんとだ!」
「待って、麗愛の手も入れて」
「こう?」
「そう!」
写真を撮りながら、二人はまた笑った。
━━━━━━━━━━━━━━
「そういえば、凛空は?」
「ん?」
「どんな人が好きなん?」
凛空の手が止まる。
「私?」
「うん」
「……分かんない」
「え?」
「今まで付き合った人って、好きなタイプとか考える前に付き合ってたから」
「そうなん?」
「うん」
凛空はストローをくるくる回す。
「でも、次に好きになるなら……」
「うん」
「ちゃんと私のこと見てくれる人がいいかも」
「……」
麗愛は少しだけ嬉しそうに笑った。
「じゃあ、凛空にもいつかそんな人できるといいね」
「私は凛空のこと大切にしてくれる人じゃなきゃ嫌だ。私より凛空への愛が強い人がいい。」
「……麗愛」
「ん?」
「ほんと、そういうところ好き」
「えへへ」
二人は顔を見合わせて笑った。
「麗愛も、いつか絶対いい人見つけなよ」
「うん!」
「ダメな人選んだら凛空が怒るからね」
そう言いながら2人で笑った
「約束ね」
「約束!」
━━━━━━━━━━━━━━
その頃。
聖月学園では――
「蓮翔、帰らへんの?」
こうがが声をかける。
「ん?」
「さっきから何ぼーっとしてんの?」
「別に」
「ふーん」
こうがが蓮翔の視線の先を見る。
そこには、もう誰もいない。
「……誰見てたん?」
「誰も見てへん」
「はいはい」
蓮翔は鞄を持ち上げる。
「帰るぞ」
「おう」
歩き出しながら、蓮翔はふと思う。
昼間の黒髪の女の子。
そして――
昨日の夜の、金色の髪の女の子。
「……似てるんよな」
「何が?」
「いや」
蓮翔は首を振る。
「なんでもない」
――んなわけない。
そう思っている。
でも。
なぜか、少しだけ気になる。
━━━━━━━━━━━━━━
――その夜。
月華嬢。
「ねえ、麗愛!」
「ん?」
「今日新しいリップ買ったんだけど、見て!しかも新作〜」
「え、かわいい!」
「でしょ?」
「色めっちゃ好き!」
「麗愛も使ってみる?」
「いいの?」
「うん!」
「やった!」
今日も女の子たちの笑い声が響く。
コスメ。
ネイル。
恋バナ。
新作スイーツ。
くだらない話。
そんな普通の時間。
その中心で笑っている麗愛を――
少し離れた場所から、蓮翔が見つめていた。
「……」
やっぱり。
昨日の子だ。
金色の髪。
淡い水色の瞳。
月華嬢の特攻服。
間違いない。
蓮翔はそう思いながら、麗愛を見ていた。
そしてふと――
昼間の黒髪の女の子が頭をよぎる。
「……」
似ている。
笑ったときの雰囲気。
目元。
声……は、まだちゃんと聞いていない。
「……いや」
蓮翔は小さく笑った。
「んなわけないやろ」
さすがに、そんな偶然あるわけがない。
そう思うのに。
「……でも」
もう一度、麗愛を見る。
「なんか、気になるな」
まだ、確信はない。
ただ――
昼と夜。
まるで違う二人の女の子が、
なぜか少しだけ重なって見えた。
その違和感だけが――
蓮翔の中に、静かに残っていた。
