律が心底不思議そうに振り返ると、姫華はパイプ椅子に深く腰掛け、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべていた。
「白石さんのこと『彩羽ちゃん』って呼んでるのも丸聞こえだしさ。昔の、誰に対しても薄っぺらで冷めてて、心が空っぽだった律くんが嘘みたい。」
「……姫華。」
彩羽が真っ赤になって小さくなっていると、姫華は缶ジュースを片手に彩羽の隣へ歩み寄り、ポンと軽く肩をたたいた。
「白石さん、気にしなくていいからね。この人、今まで本気で人を好きになったことがなかったから、加減が分からなくて恥ずかしげもなくデレデレしちゃってるだけだから。」
「ひ、姫華先輩……っ。」
「ふふ、でも良かった。今の律くん、昔の作り物の笑顔よりずっと人間らしくて良い顔してる。……白石さん、このバカ彼氏のこと、これからもよろしくね。」
「姫華……。余計なお世話。」
少し前までは、律の過去の象徴として彩羽の心を重く揺らしていた姫華。
だが、今の彼女は誰よりも律の変化と成長を喜び、一番の理解者として温かく見守ってくれていた。
元カノから''最強の良き理解者''となった姫華の心強い言葉に、彩羽は胸のつかえがスッと下りるのを感じ、
「はい!」
と小さく、けれどしっかりと頷いたのだった。


