耳元にすっと唇を寄せられ、低い声で甘く囁かれる。
耳腔を揺らす息の熱さに、彩羽の顔が一瞬で熟した林檎のように真っ赤に染まった。
付き合ってすぐの頃に起きたあの嫌がらせ事件と、暗室での切痛な衝突を経てからというもの、律の変貌ぶりは留まるところを知らなかった。
かつて校内で誰にでも見せていた、クールで隙のない''完璧な先輩''の仮面は完全に剥ぎ取られていた。
彩羽と二人きりになった瞬間から、躊躇なく''彩羽ちゃん''と名前にちゃん付けで呼び、どこへ移動するにも片時も手を離さず、彩羽が持つ小さくて軽い鞄すら
「彼氏の仕事だから」
と当然のように奪い取っていく。
「離れる」
と彩羽に言われたあの日の絶望とトラウマを打ち消すかのように、律の独占欲と溺愛は隠すことなく全身から溢れ出ていた。
「あの……先輩、名前で呼ぶのは…その、学校ではやめてくださいね? みんなが見てますし…。」
「えー、なんで? 俺、もう周りに隠すつもりなんて一切ないんだけどな。『白石彩羽は俺の最高の彼女です!』って全校生徒に言いふらして回りたくてウズウズしてるくらい。」
「私が照れすぎて爆発しちゃいます……っ!」
真っ赤になって両手で顔を覆う彩羽を見て、律は
「はぁ……可愛すぎる……。」
と吐息を漏らし、愛おしさに耐えかねたように彩羽の柔らかい髪をポンポンと優しく撫でた。


