「……黒羽先輩。」 「ん? 何か分からないところあった?」 律が作業の手を止め、まっすぐな瞳で彩羽を見つめ返してくる。 「……いえ。なんでもありません。」 (どうして…振ったのに、そんな風に優しく笑うの…?) 自分が遠ざけようとすればするほど、律の飾りのない誠実さが眩しく胸に突き刺さる。 彩羽の心の中に打ち建てられていた頑丈な壁に、静かに、けれど確実に、決して埋まらない亀裂が入り始めていた。