一度自分の身を守るために固く張り巡らせた防波堤は、彩羽の防御本能そのものだった。
また信じて、裏切られたら?
自分も''たくさんの女子の一人''に過ぎなかったと知ったら?
傷つくのが怖くて、足元が竦み、どうしても踏み出す勇気が出なかった。
「……ごめんなさい。」
彩羽は唇を血が滲むほど強く噛み締め、両手を握りしめたまま視線を床に落とした。
「私には…黒羽先輩の気持ちに応えることはできません。先輩は凄く素敵な写真家で、部長として尊敬しています。でも…それだけです。」
絞り出すように放った、冷酷な拒絶の言葉。
自分の声が震えているのが分かった。
一瞬、律の表情が砕けたガラスのように痛みに歪む。
けれど、彼はかつてのように自暴自棄になったり、軽い冗談でその場の空気を誤魔化したりはしなかった。
「……そっか。急に言ってごめんな。」
律はゆっくりと小さく息を吐くと、眉を下げ、寂しそうに、けれどどこか温かく柔らかな笑みを浮かべた。
「でも、俺の気持ちは変わらないから。振られたからって逃げたりしない。お前が俺を信じられるようになるまで、何度でも証明するから。」
悔しさも焦りも見せず、ただ静かに己の覚悟を口にする律。
渡り廊下を去っていく彼の背中を見送りながら、彩羽は胸の奥が焼けるように痛むのを抑えきれずに立ち尽くしていた。


