「黒羽先輩。今日のデータ、こちらにまとめておきました。」
「あ、ありがとう。」
先輩と後輩。
崩してはならない安全な境界線。
しかし、律は歩みを止めなかった。
カツン、カツンと静かな足音を響かせ、彩羽との距離をゆっくりと詰めてくる。
彩羽の背中が渡り廊下の壁に触れ、足が止まった場所で、律は静かに立ち止まった。
逃げ場のない距離。
けれど、そこには以前のような嫌な圧迫感はなかった。
「白石。…俺さ、もう誰とも付き合わないよ。気を紛らわせるのも、逃げるのも、全部やめたんだ。」
「え……?」
思いがけない突然の言葉に、彩羽の瞳が小さく揺れる。


