自分には逆立ちしても見えない世界を、この小さな後輩はこんなにも透明で、鮮やかに切り取っている。
「……ありがとうございます。」
けれど、彩羽は静かに頭を下げるだけだった。
そこに浮かんでいたのは、先輩に対する礼儀正しさと、決して境界線を越えさせないための、冷たいまでの距離感。
(なんで…そんな目で俺を見るんだよ。)
「姫華の彼氏」
であり
「誰とでも遊ぶモテ男の先輩」
彩羽の瞳に映る自分の肩書が、鋭い針となって律の胸を深く刺した。
誰とでも器用に会話を合わせ、相手の欲しい笑顔を与えられていたはずの自分が。
彩羽の''一歩引いた視線''の前では、どうしようもなく焦り、歪んだ独占欲で胸を削られていた。


