「はい、彩羽ちゃん。お誕生日おめでとう!」
激しい雨がフロントガラスを叩きつける律の車内。
エアコンの温風が心地よく包み込む密やかな空間で、律は小さな箱と、彩羽がずっと欲しがっていた上質なレザーのカメラバッグを助手席の彩羽に手渡した。
箱を開けると、そこには崩れないように大切に運ばれた有名店の小さなショートケーキ。
「車の中でごめんね。でも、今日中に一番に『おめでとう』が言いたかったんだ。」
「ううん…嬉しい…すごく、嬉しいです…っ!」
泣きじゃくる彩羽の手を、律は愛おしそうに両手で優しく包み込んだ。
「ねえ、彩羽ちゃん。最近、俺に何か遠慮してただろ? 俺が遠くに行って、離れて、寂しい思いさせてた?」
「それは…少しだけ…。律さんがどんどん遠い世界に行っちゃう気がして…。私だけここで止まってるみたいで、引け目を感じてたんです…。」
絞り出すように打ち明けられた本音に、律は愛おしそうに目を細めると、スマートフォンの画面を操作して彩羽に見せた。
そこに映っていたのは、律が大学で提出し、教授陣から最高評価を受けた作品だった。
モダンな建築や都会の風景。
けれど、そのどの写真も、柔らかい光や彩羽の写真から学んだ温かいグラデーションを宿していた。


