ガタリと軽い音がして、かつて彼がいつも腰掛け、彩羽を甘い瞳で見つめていた指定席のパイプ椅子がぽつんと取り残された。
唯一の2年生である彩羽は、実質的な次期部長として、文化祭のパネル設営や秋のコンクールに向けた1年生たちの指導・機材準備を一手に引き受けていた。
「白石先輩、この写真のピント、これで合ってますか?」
「あ、はい。そこはもう少し絞りを開けて……被写界域を浅くすると、背景が綺麗にぼやけて主役が引き立つよ。」
後輩たちの丁寧な質問に応対しながらも、彩羽の胸の奥には、ぽっかりと穴が開いたような小さな寂しさが広がっていた。
以前なら部室の隅でいつでも温かい視線を向けてくれ、
「彩羽ちゃん」
と甘く名前を呼んで抱きしめてくれた律がいない。
あの甘々で溺愛してくれた時間が減っていく現実は、思っていた以上に彩羽の心にこたえていた。
(私も、しっかりしなきゃ。……文化祭の展示も成功させて、律さんが安心して自分の夢に向かえるように、私が部長としてこの部活をちゃんと守らないと。)
夕暮れの暗室。
赤いセーフランプが怪しく揺れる中、現像液に浸した印画紙にゆっくりと像が浮かび上がってくるのを見つめながら、彩羽はぎゅっと拳を握り締めた。


