数分後。
救護室の窓からグラウンドを見つめる彩羽の視線の先で、学年対抗選抜リレーが始まった。
前の走者バトンを受けた律は、トップとの差を圧倒的なスパートで縮めていく。
圧倒的な走破力。
歓声がピークに達する中、律は胸を突き出し、トップでゴールテープを駆け抜けた。
歓喜に沸くグランド。
仲間に囲まれ、胴上げされる律。
体育祭が終わり、夕暮れの静けさが戻ったグランドで、律は真っ先に救護室へ戻ってきた。
汗まみれの体操着のまま、彩羽の元へ歩み寄る。
「白石。約束通り…一番で帰ってきたよ。」
律は胸を張り、少年のような眩しい笑顔を見せた。
彩羽は膝の上に置いていた一眼レフをゆっくりと持ち上げた。ファインダーを覗く。
右足の痛みも、周囲の目も、もうどうでもよかった。
ファインダー越しに見える律の笑顔が、涙で滲んで大きく揺れる。
カシャッ。
茜色の光の中、切られた一回のシャッター。
それは、公式の学校記録には決して残らない、二人の胸の奥だけに深く刻み込まれた、何よりも愛おしく眩しい一枚だった。


