待った? 誰が、何を?
彼は一体何を言っているのか。
大学時代、ただの可愛い後輩だと思っていた彼の口から出たとは思えない言葉の重みに、心臓がうるさいほど脈打つ。
「・・・廉、くん・・・・・冗談は、やめて・・・・私、年上だし・・・・・過去にいろいろあって、恋愛とかそういうのは・・・・。」
動揺のあまり、思わずトラウマの予防線を張りそうになる結衣。
すると廉は、困ったように眉を下げて、くすりと小さく笑った。
「逃げようとしてますね、また。」
その笑顔は、大学時代に結衣が見慣れていた''甘え上手な可愛い後輩''そのものだった。
けれど、結衣の手首を掴む指の力はびくともしない。
「過去の男のせいで臆病になってるなら、俺が全部上書きしてあげます。・・・・大学の時からずっと、結衣さんだけ見てたんですから。」
耳元で低く囁かれた「結衣さん」という呼び名。
「先輩」を外されたその瞬間のゾクッとするような快感と甘い恐怖に、結衣は声も出せずに固まった。
「仕事に戻りましょうか、結衣先輩。」
満足したように微笑むと、廉はさっと身を引き、何事もなかったかのように資料室のドアへと向かって歩き出す。
一人残された結衣は、崩れ落ちそうになる膝を必死で支えながら、熱を持った自分の頬を押さえることしかできなかった。

