過去の傷も全部、君の熱で上書きして。


必死に心の中で防壁を築き直し、手にしていたファイルを棚の上段へ戻そうと背伸びをした、その時だった。​


「届きませんか? 手伝います。」​


すっと背後から伸びてきた手が、結衣の手の上からファイルを軽く棚の奥へと押し込んだ。

完全に後ろから抱きすくめられるような格好になり、結衣の背中に廉の胸板が触れる。

スーツ越しにも伝わってくる彼の体温と、包み込まれるような体格差。​


「あ・・ありがとう。でも、大丈夫だから───。」​


慌てて振り返ろうとした結衣の肩を、廉の手がしっかりと掴んだ。

そのまま結衣の体をぐるりと反転させ、資料棚と自分の体の間にすっぽりと閉じ込める。​


「・・・瀬戸、くん・・・・・・?」

「さっきの食堂での話の続きなんですけど。」


​廉は逃げ場を無くすように、片手を結衣の頭の横の棚についた。

至近距離で見つめ返してくる瞳は、先ほどまで莉子たちに見せていた爽やかなものとはまるで違う。

重く、甘く、恐ろしいほど一途な熱を帯びていた。


​「莉子先輩に連絡先教えていいかって聞かれて、結衣先輩、『私なんてただの教育係だから』って笑ってましたよね。」

「そ、それは・・・・周りの目もあるし、実際そうだから・・・・っ」

「違いますよ。」​


きっぱりと遮る廉の声に、結衣は喉を鳴らした。

廉の顔が、さらに10センチ縮まる。

息がかかりそうな距離。


​「俺がこの会社に入ったのも、教育係に立候補するよう仕向けたのも・・・全部、あんたの隣に立つためです。」

「え・・・・・?」

「''ただの指導係''なんて言わないでください。俺がどんだけ待ったと思ってんですか?」​


語尾に滲む、隠しきれない情熱と執着。

結衣は混乱で頭が真っ白になった。