「おっ、芙雪じゃん。ヤッホー」
廊下に出ると、大きく手を振っているやつが目に入る。
犬神圭吾。
うちのクラス一の運動神経と低身長を持つと言われる男。
身長についてはだいぶ気にしているらしい。
「犬神。おはよう」
「圭吾って呼んでくんねーの?おれ、楽しみにしてんだけど」
「何をだよ」
確かに圭吾って呼んでもいいかもしれない。
でも、一ヶ月間犬神と呼んでいたからか、少し呼び辛いのが現状だ。
「そーいやさ、芙雪の分もおれ頑張るわ」
「負けたらジュース一本な」
「えぇっおれそんな金ねーよ?無一文だって」
さっきまでカッコつけてたのか、ドヤ顔だったのに、急に慌て出す犬神。
「昨日、貯金中って言ってただろ?」
「バレたか……閻魔大王め」
「誰がだよ」
なぜか犬神と一緒にいると、漫才をしてる気分になるのは俺だけなんだろうか?
基本的に犬神はいじられキャラだからな。
同じクラスの柊なんかは、身長の測定の時「お前本当に犬だったんだ。子犬だな」と盛大にいじっていた。
「おはよう。芙雪、子犬」
「誰が子犬だっ」
「お前以外誰がいるんだ?」
「むっ……楓雅が高いだけだっ」
登場から散々ないじりを受けている犬神。
かわいそーだな。あはは。
柊楓雅は、クラス一の身長と、いじりのセンスを持つ。
いじりのセンスって?
「おはよう」
一旦スルーして教室に入ることにした。
「おいっ……見捨てんなよ……親友」
「誰がだ」
犬神は自称俺の親友だ。
自称。
「じゃあ、楓雅身長くれよ」
「ヤダね。牛乳飲め」
「飲んでます〜」
なかなか終わらない言い合い。
もはや、うちのクラスの恒例行事となっているのが、犬神と柊の言い合いだ。
ちなみに二人は小学校からの腐れ縁らしい。
なんとなくイメージつくのが不思議だ。
「おはよ。ふゆっち」
「おはよう」
前の席の塩峰天音。グレージュに染めた髪が特徴の陽キャ女子で、莉桜の中学時代からの友達らしい。
クラス一のコミュ力を持ち、犬神と一緒に体育祭の実行委員をしている。
「莉桜もはよ」
「おはよう。天音」
莉桜は、塩峰ととてつもなく仲が良いらしく、競技の練習を一緒にやると言っていた。
流石に俺は運動面では支えになれないが、応援しようと思う。
一回優勝してみたいしな。
俺は意外と負けず嫌いらしいから、厳しめに運動を制限されてる。
ストレスの発散方法がなくなったのは、だいぶ痛い。
今は、ゲームでストレスを発散している。
案外やりがいがあってハマってしまっているのが現状だ。
気付けば、朝のホームルームが始まっていて、学級委員が前に出て話している。
そろそろ体育祭期間か。
ジャージ登校になるが、運動のできない俺は、暇な週間だ。
去年は、出れないことが悔しくて、イラついてた。
それと比べれば、今年は落ち着いていると思う。
見学でレポートか。
先生も俺の事情を知っているせいか、他の人より見学の労働を減らしてくれている。
俺は大丈夫だと思うんだけどな。
そう言っても、万が一があったらいけないらしいので、結局運動はダメらしい。
残念ままならない。
「おーい。今日はできるん?」
五限目前の移動時間。
塩峰が、聞いてくる。
「まぁ。ラジオ体操だけだし」
激しい運動ではないので、大丈夫らしい。
正直、なかなか体を動かせないので嬉しい。
「マジ?やったー!おれ、芙雪と体育やりたかったんだ〜」
犬神が、子供のようにはしゃいでいる。
「やったことあるが?」
いつのまにか犬神の記憶から俺が消えていたらしい。
「最近はやってないだろ?ちょー楽しみだな」
謎理論だな。
まぁいつもの話だと聞き流す。
更衣室につき、久々にジャージを着る。
こんなデカかったっけと思うほどに少し大きいジャージ。
父さんと母さんが、三年間着れるようにと大きめを買った。
二人とも、俺がいつ倒れるかわからないと知っているのに、希望を捨てていない。
そんな家族には、感謝しかない。
中三の弟も、高校を夢見て勉強中だ。
「ジャージ久々に見た」
「お前もかよ」
柊が、わざわざ言ってくる。
そんなのどうでもいい気がするけど。
ついに、授業が始まり、久々の運動をする。
やっぱり運動は楽しい。
昔はどちらかというと運動できる方だったからな。
今は、体力もほとんどないけど。
実行委員の犬神と塩峰は、前でラジオ体操の手本をしている。
そのために昨日の放課後猛特訓したらしい。
大変そうだな。
程よく休憩を入れつつ、ラジオ体操をする。
他の奴らには厳しく当たってる先生も、俺には何も言わない。
無理させちゃいけないって思ってんのかな。
変な遠慮とかいらないんだんどな……
死に直結することもあるから、激しい運動はさせてもらえない。
運動したいな……
特に水泳。
好きだったんだけど、発症してからは、制限で出来ていない。
こんなことになると知っていたら、もっとやったのに。
まぁ、誰も未来は読めないんだけど。
「気をつけ、礼」
久々の運動で浮かれていたのか、一瞬で時間が過ぎ去る。
気付けば、授業は終わっていた。
