——第一章 春——
[第一節 春風]
「よかった」
今年も桜が見れた。
花が散っていくたびに思う。来年はこの景色を観れるだろうか。いつの日か、この花みたいに散ってしまうのか。
怖いけど、それも運命。
受け入れなければいけないと知っている。
この花たちも散りたくて散ってるわけじゃない。
俺だって、そんなことわかってる。
「芙雪。はやく」
「はい。ちょっと待ってって」
小走りで母の元に駆けつける。走るたびに心配されるけど、俺は大丈夫。そうまた自分に言い聞かせる。
そうじゃなきゃやってられない。
「あれ?」
視線の先に一人の女の子がいた。
見惚れていた。
何か引力で、引っ張られるように。
彼女を見つめていた。
愛おしそうに小さな花を眺めている。
確か……アネモネだったっけ? 黒髪を靡かせる彼女にぴったりだ。
「あの……」
「はい?」
急に背後から声をかけられる。振り向くとさっきの女の子がいた。
制服をきちんと着こなしている。まるで制服のモデルみたいだななんて思っていると
「新入生ですか?」
と聞かれる。
「はい」
「迷っちゃって……ついてってもいいかな?」
「うん」
本来、入学式は新入生が先に行くんだけど、うちの親は心配性みたいで、ついてきたんだ。
「俺は大丈夫だから」
そう言って、親を帰らせる。どうせ見てるんだから、変わんないけど。
その子を連れて教室まで行く。その前に玄関だけどな。
えっと……俺は……二組か。
生涯で五組になってみたかったけど……また来年か。
なれるといいけど。
「わっ……二組。きみは?」
「俺も」
まさかおんなじクラスだったとは。知っている人がいるとちょっと嬉しいかも。
治療のために、引っ越したからな。知ってる人なんているわけがない。
「そういえば自己紹介してなかったね。広葉莉桜です」
クラス表で、名前を探す。
広葉さん。じゃあ出席番号俺と割と近いかも。誕生日十一月あたりかな?
いい漢字だ。桜みたいな存在感がある彼女にぴったり。
「俺は風花芙雪。よろしく」
「風花くん。いい名前だね」
いい名前だと褒めてもらえるとなんだかいい気がする。
あと何回名前を呼んでもらえるだろう。あと何回、名前を呼べるだろう。
そう考えたら下の名前で呼んだ方が後悔しないはずだ。
「莉桜って呼んでいい?」
流石に急すぎたかもしれない。
そう後悔した。今日。しかも、さっき出会ったばっかなのに。
こんなの嫌われる。そう身構えたときだった。
「うん。じゃあえっと……芙雪くんって呼ぶね」
「わかった。教室行こうか」
「うん」
この笑顔が好きだ。なんだか心地いい笑顔だ。この笑顔を一生分見れればいい。そう思った。
あの日から、俺はいつでも後悔のないように過ごそうと思った。だから、次を期待しつつもどうせ叶わないと諦めてる。
だけどたった今、諦めたくないと思った。莉桜の笑顔を一回でも多く見たいと思った。
案の定、席は近くで助かった。近くというより隣。
横を向くと微笑んでくれて、ドギドキしてしまう。
なんだろう。きっと好きなんだろう。
後悔はしたくない。でも、言ってしまえば離れがたくなる。
どうすればいいんだろう。それがわからず、話は全て横から筒抜けていった。
