薔薇色って何色?――ロト7で人生をやり直すはずが、敏腕弁護士の執着愛に捕まりました――

「……何を」

「何でもいいよ。奏さんが話したいところから」

そこへ、聖子さんがお茶のおかわりを持って戻ってきた。

「そうそう。何でもいいのよ」

「聖子さん」

「あら、いいじゃない」

当然のように会話へ入ってくる。

「人生なんて、色だけで決まるもんじゃないわよ」

「色だけでは……」

「自分で変えることだってあるし」

聖子さんは私の湯呑みにお茶を足しながら、少し笑った。

「周りの人が変えてくれることだってあるんだから」

周りの人。

その言葉だけが、妙に耳へ残った。

私の人生は、誰かに変えられたことならいくらでもある。

でも。

いい方へ変えてもらった記憶なんて――。

「話してみたら?」

聖子さんが私を見る。

「所長、こう見えて聞き上手だから」

「聖子さん。“こう見えて”はいらないですよ」

「あら。褒めてるのよ?」

「どこがですか」

二人のやり取りに、ほんの少しだけ口元が緩んだ。

自分でも分かるくらい、小さく。

笑ったと言うには、まだ足りない。

でも。

何だろう、この場所。

もっと堅苦しくて、言葉をひとつ間違えただけでも叱られそうなところを想像していたのに、不思議なくらい息がしやすかった。

私は湯呑みを両手で包んだ。

何を話せばいいのかは、まだ分からない。

でも。

今日の出来事なら、ひとつだけある。

「……私」

「うん?」

茂樹先生がこちらを見る。

「今日、十二億円を手に入れたんです」

一瞬、部屋の中から音が消えた。

「…………はい?」

先に声を出したのは、聖子さんだった。

私は二人を見比べる。

「ロト7です。一等でした」

「……」

「キャリーオーバーで、十二億円ちょっと」

聖子さんの口が、少し開いたまま止まった。

茂樹先生も、さすがにすぐには言葉が出ないらしい。

やっぱり。

普通は、こういう反応をするんだ。

銀行でも、もっと驚けばよかったのだろうか。

そんなことを考えていると、ふと茂樹先生が笑った。

「凄いじゃないか」

思ったより明るい声だった。

「なかなか当たるものじゃない。それも十二億円でしょう?」

「……そうみたいです」

「そうみたい、か」

茂樹先生は、少し可笑しそうに笑う。

「でも、奏さんはまだ現実味がないんだね」

「現実味……」

「うん」

表情が、また穏やかなものへ戻った。

「お金が振り込まれたからといって、昨日までの人生が突然消えるわけじゃないからね」

その言葉に、少しだけ胸の中がほどけた。

ああ。

だからなのか。

十二億円は確かにある。

銀行で見たし、数字も確認した。

それなのに、私の頭の中には昨日までと同じように、家賃や食費や次のバイトのことが残っている。

何年も染みついた生活が、数時間で消えるわけがない。

「それでいいんじゃないかな」

「……いい?」

「これから変えていけばいい」

茂樹先生はそう言うと、少し考えるように腕を組んだ。

「そうだなぁ……何かないかな」

「何か?」

「うーん……」

本気で考え込み始める。

その姿を見ていると、なぜこの人が私以上に悩んでいるのか分からなくなってきた。

すると――。

ぱんっ!

突然、隣で手を叩く音がした。

「人生を変えるきっかけよ!」

「えっ?」

思わず肩が跳ねる。

聖子さんだった。

「せっかくでしょう? 十二億円よ。もちろん、無駄遣いしろって意味じゃないわよ」

「はあ……」

「奏さんにとって、何か変えたいことはないの?」

変えたいこと。

そう言われても、すぐには出てこない。

仕事。

住む場所。

生活。

自分。

どれも間違ってはいない。

でも、何か違う。

「うーん……」

考え込んでいると、聖子さんがふと表情を変えた。

「じゃあ、逆は?」

「逆?」

「変えられたこと」

その言葉が、胸の奥へすっと入ってきた。

「誰かに変えられてしまったこととか。取り戻したいものとか、やり直したいこととか。何かない?」

一瞬、心臓が妙に大きく鳴った。

「ちょっと、聖子さん」

茂樹先生が口を挟む。

「僕が今、それを言おうと思ってたんだけど」

「あら、遅いのよ所長は」

「今から言うところだったんですよ」

「思ってるだけじゃ伝わらないでしょう?」

「いや、だから今から――」

「聖子さん」

少し離れた場所から、男性の声がした。