シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―

 大学へ潜入した当初。

 ここは、ただの任務場所だった。

 それなのに。

 最近では、ときどき。

 この場所へ来ること自体を楽しみにしている自分がいる。

 ――よくないなぁ。

 少しだけ、そう思う。

 任務と日常を混同してはいけない。

 ここへ来た目的は。

 あの古い時計を探すこと。

 それを忘れてはいけない。

 梨来がわずかに表情を引き締めた、そのときだった。

「あの」

 事務室の入口から、低く落ち着いた声がした。

 梨来は顔を上げる。

「はい?」

 そこに立っていたのは、一人の男子学生だった。

 最初に目へ入ったのは、身長だった。

 高い。

 事務室の入口に立っているだけなのに、妙に存在感がある。

 黒髪の短髪。

 細身の黒い眼鏡。

 服装はいたって普通だった。

 シンプルなシャツに、暗めのパンツ。

 派手なものは何も身につけていない。

 けれど。

 肩幅が広い。

 服の上からでも、しっかりした体格なのが分かる。

 姿勢もいい。

 顔立ちは整っているけれど、目を引く派手さというより、真面目そうという印象のほうが先に来た。

 梨来はその学生を見上げる。

「どうしたの?」

「先生に確認したいことがあるんですけど」

「うん」

 返事をしてから。

 梨来は一拍遅れて瞬きをした。

 ――先生?

 誰のことだろう。

「施設使用の申請についてなんですが」

「ああ、うん。見せて?」

「お願いします」

 差し出された用紙を受け取る。

 男子学生は梨来の前へ立ったまま、静かに待っている。

 梨来は用紙へ視線を落とした。

 軽音サークル。

 練習室の使用申請。

 代表者とは別の名前が、連絡担当者として記載されている。

 直充。