シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―

 翌日の昼過ぎ。

「梨来さん、これお願いします」

「はーい」

 差し出された書類を受け取り、梨来は内容へ目を通した。

 申請者名。

 学籍番号。

 必要事項が記入されていることを確認して、受付印を押す。

「これで大丈夫だよ」

「ありがとうございます!」

「うん。次からは締切、もうちょっと早めに思い出してねぇ」

「すみません……」

「昨日まで忘れてたでしょ?」

「なんで分かるんですか」

「顔に書いてある」

「嘘!?」

 学生が慌てて頬へ手を当てる。

 梨来はくすっと笑った。

「嘘だよぉ」

「梨来さん!」

「でも、次は気をつけてね」

「はーい……」

 しょんぼりしながら学生が事務室を出ていく。

 梨来はその背中を見送り、書類を所定の場所へ置いた。

 大学事務員の仕事は、思っていた以上に細かい。

 各種申請。

 問い合わせ。

 施設の使用に関する手続き。

 落とし物。

 学生からの相談。

 時には、

「教室に傘忘れたんですけど、どうしたらいいですか」

 なんてことまで聞かれる。

 最初の頃は、

 ――それ、私に聞くんだ。

 と思ったものだけれど。

 むしろ。

「梨来さーん」

「んー?」

「ちょっといいですか?」

「いいよぉ」

 今ではもう慣れた。

 名前を呼ばれると、反射的に返事をするくらいには。

 今度やってきた学生の話を聞きながら。

 梨来はふと、昨日の希美との会話を思い出した。

『梨来さんも好きな人できたら分かりますって』

 好きな人。

 恋愛。

 そして。

『別に』

「…………」

「梨来さん?」

「ん?」

「聞いてました?」

「聞いてたよ?」

「今絶対ぼーっとしてましたよ」

「ちょっとだけ」

「やっぱり!」

「ごめんねぇ」

 梨来は素直に謝った。

 学生は笑う。

 こういうやり取りも。

 少し前までの梨来には、ほとんどなかった。

 誰かとくだらない話をする。

 どうでもいいことで笑う。

 自分の知らないことを教えてもらう。