シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―

 夜。

 梨来は自宅へ戻ると、カーテンを閉めた。

 玄関。

 窓。

 室内。

 一つずつ確認していく。

 先ほどまでの、のんびりとした動きはない。

 短い時間で確認を終えると、鞄を机の上へ置いた。

 鞄から取り出したのは、小型の端末だった。

 電源を入れる。

 認証。

 さらに認証。

 表示された文字を確認する。

 昼間、学生の恋愛相談を聞きながら「別にって言ったんだよね?」と首を傾げていた女性と同一人物には見えない。

 背筋はまっすぐに伸び。

 視線は鋭く。

 指先に迷いはない。

「日本支部。定時報告を開始します」

 声まで違う。

 柔らかく間延びした響きは消えていた。

「誠星大学構内における捜索対象の所在は、現在も確認できていません」

 必要な情報だけを、簡潔に告げる。

「学内施設および保管記録の調査を継続中。現時点で、対象に接触したと思われる人物も確認できていません」

 今回、梨来に与えられた任務。

 それは。

 誠星大学、及びその周辺に存在するとされる、ある物を探し出すこと。

 ――古い時計。

 組織が長く所在を追っている危険物の一つ。

 梨来に与えられている情報も、決して多くはない。

 なぜ、その時計が危険なのか。

 何が起きるのか。

 詳しいことは知らされていなかった。

 確かなのは。

 組織が回収を必要と判断していること。

 そして、最後に存在が確認された情報を辿ると、誠星大学周辺へ行き着くということ。

 だから梨来はここにいる。

 大学事務員として。

 学生たちの中へ紛れ。

 時計を探すために。

 世界規模で活動する秘密組織。

 その日本支部に所属するエージェントとして。

「引き続き調査を継続します。以上」

 報告を終える。

 端末の表示が切り替わった。

 梨来は画面を確認し、短く息を吐いた。