シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―

 午後の仕事を終え、梨来が事務室を出た頃には、昼間の賑やかさも少し落ち着いていた。

 校舎を歩いていると、窓の向こうに学生たちの姿が見える。

 サークルへ向かうのだろう。

 数人で歩いていた学生の一人が何かを言い、隣の学生が笑った。

 ただ、それだけ。

 梨来は足を止めなかった。

 けれど、視線だけは少し長くそこへ残った。

 大学へ来てから。

 こういう光景を何度も見るようになった。

 授業を受ける。

 友達と話す。

 恋をする。

 文化祭を楽しみにする。

 きっと彼らにとっては、特別でもなんでもないことなのだろう。

 それが梨来には、少し眩しく見えた。

 自分にも、こんな時間があったら。

 ――なんて。

 ふと考えてしまうことがある。

「……何考えてるんだろ」

 もう二十七なのに。

 梨来は小さく笑って、歩き出した。

 大学事務員として働いている今だって、楽しくないわけではない。

 学生たちは可愛い。

 仕事にも慣れた。

 希美のように懐いてくれる学生もいる。

 だから。

 これで十分。

 そう思う。

 ――ここにいる本当の理由さえ、忘れていられるのなら。