シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―

 一時間後。

「……暑い」

 先輩が床へ座り込んだ。

「休むなら邪魔にならないところで休んでください」

「直充、元気すぎない?」

「普通です」

「普通のやつはその棚一人で動かさないから」

「持てたので」

「そういう話じゃない」

 直充は額の汗を手の甲で拭った。

 思っていたより時間がかかっている。

 それでも。

 廊下を塞いでいた荷物は、かなり減った。

「水買ってくる」

 先輩が立ち上がる。

「直充もいる?」

「あります」

「用意いいな」

「こうなると思ったので」

「俺への信用がない」

「ありますよ」

「本当?」

「こうなるだろうという信用は」

「それ信用って言わない」

 先輩がぶつぶつ言いながら廊下を歩いていく。

 その背中を見送って。

 直充はペットボトルの水を一口飲んだ。

 静かになった。

 旧棟は。

 普段、学生があまり立ち入らない。

 使われている教室もあるが。

 新しい棟に比べれば、人の気配はずっと少なかった。

 蛍光灯の低い音。

 開いた窓から入る風。

 遠くから聞こえる学生の声。

 それだけが。

 妙にはっきり聞こえる。

 直充はペットボトルの蓋を閉めた。

 床に残された箱を見る。

「これか」

 側面に。

 古い文字で、

『大学資料』

 と書かれている。

 資料室へ運ぶものだろう。

 直充は箱を抱え上げた。