シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―

「お兄ちゃん、今日遅かったね」

 夜。

 自宅へ戻った直充は、リビングで妹に声をかけられた。

「そうか?」

鞄を置きながら時計を見る。

「いつもより遅かったよ」

「サークルあったからな」

 妹の亜美はソファに座り、スマートフォンを見ていた。

 同じ誠星大学へ通っている。

「そういえば」

 亜美が顔を上げた。

「なに」

「今日、事務室の近くにいた?」

「いたけど」

「やっぱり。見かけた気がした」

「声かければよかっただろ」

「遠かったから」

「なら仕方ないな」

 直充は冷蔵庫を開け、水を取り出す。

「誰かと話してたよね」

「先生」

「先生?」

「施設使用の申請してた」

「ふうん」

 亜美はそれ以上興味を示さず、またスマートフォンへ視線を戻した。

 直充も水を飲む。

 それで会話は終わるはずだった。

 けれど。

「……変わった先生だった」

 何気なく口にすると、亜美がまた顔を上げた。

「変わった?」

「ちょっと」

「どんな人?」

「……ふわふわしてる」

「ふわふわ?」

 亜美が眉を寄せる。

「なにそれ」

「俺も分からない」

「自分で言ったんじゃん」

「他に言い方がない」

 話し方も。

 髪も。

 雰囲気も。

 なんとなく。

 ふわふわしていた。

「先生っぽくない」

「それ失礼じゃない?」

「悪い意味じゃない」

「じゃあどういう意味?」

「だから分からないって」

「なにそれ」

 亜美が小さく笑う。

 直充も少しだけ口元を緩めた。

「明日早いから寝る」

「うん。おやすみ」

「おやすみ」

 自室へ向かう。

 階段を上がりながら。

 直充の頭に一瞬だけ。

 昼間見た女性の顔が浮かんだ。

『私ね』

 そう言って。

 何かを言いかけていた。

 結局。

『なんでもないよ』

 と笑っていたけれど。

 何だったのだろう。

「…………」

 まあ。

 次に会ったときにでも聞けばいい。

 そう思って。

 直充はすぐに考えるのをやめた。