ごめんなさいと、いってほしかった。





 誰もいない非常階段に、うっすらと夕日が差し込む。


 わたしの心臓の音が聞こえてしまいそうなくらい、辺りは静かだ。




「ああ、金木(かねき)さんいた。ごめん、待たせたよね」


「あっ、いえ、大丈夫です!わたしこそ、こんなところに呼び出して、すみません」




 沈黙を破ったのは、階段を上ってきた天城先輩だった。


 申し訳なさそうにする姿は愛嬌があって、思わずかわいいと思ってしまう。




「それで、僕を呼んだ理由って?」




 先輩の質問に、心臓が跳ね上がる。



 いわなくちゃ。


 そう思えば思うほど、口のなかが乾いて、とっさに言葉が出てこない。



 この関係を、先輩後輩というあたりまえの環境を壊したくないと、本能がいう。



 だけどこの関係を終わらせなければ、いつまで経っても変われないと、知っているから。





「すきです。すきなんです、天城先輩のこと」





 ――人生ではじめての、告白。



 いまの心拍数はたぶん、百を超えている。


 自分の体の震えはわかるのに、先輩の反応だけは、怖くて考えられなかった。




「えっ……と……」




 いつもよりゆっくりとした先輩の反応。


 戸惑っているのがわかって、段々と、申し訳なくなる。




「……その」




 先輩が遠慮がちに口を開き、わたしはばっと顔を上げた。



 了承か、謝罪か。



 期待してはいけないと知りつつも、心の中では希望が渦を巻く。


 一秒が何時間にも感じられるようなときのなか、先輩は言葉を続けた。




「ここでは、返事しづらくて……」




 その言葉が保留を表すものだと気づくのに、数秒を要した。


 フラれていないという安堵ともどかしさが、濁流のように押し寄せる。




「……わかりました。待ってます」




 その言葉に先輩は返事をせず、「用事があるから帰るね」とだけいって場を離れた。



 先輩の姿が見えなくなる。


 わたしは下校を促すチャイムが鳴るまで、その場に座り込んでいた。