ごめんなさいと、いってほしかった。





「あのっ……!」




 わたしは、目の前の彼――天城(あまぎ)竜星(りゅうせい)先輩に、声をかけた。




「十七時、非常階段の踊り場のところに、来てもらえませんか?」




 突然の言葉に驚いた様子の先輩だったけれど、すぐにいつもの表情に戻って、




「いいよ」




 と言ってくれた。


 わたしは、嬉しさで頭がいっぱいになって、頬を赤く染めた。



 先輩と出逢ったきっかけは、この部活だった。



 わたしが入部を迷っていた美術部に、先輩はいた。


 やわらかい物腰や誠実そうなその人柄に、恋をした。



 今までずっと、一方通行な想いだったけど、今日こそ告白をしたい。



 だって先輩は、人気がある。



 放っておいたら、きっといつの間にか、恋人ができてしまう。


 それで後悔することになるなんて、ぜったいにいやだった。



 先輩は、特別明るい人じゃない。気の利いたジョークを飛ばす人じゃない。


 だけど先輩は、周りを惹きつけてしまうんだ。




「乃々花、そろそろ五時だよ」


「ほんとだ。ありがとう、由実。わたし行ってくるね」


「うん。頑張って。応援してるから」




 親友の由実に肩を叩かれ、時計を見ると長針は十を指すところだった。


 由実の目を見てお礼をいうと、蕾がほころぶように由実は笑った。



 部室を出る。



 部室のなかを覗き込むと、先輩は水彩紙や絵の具を片付けていた。


 待っている時間もすてきな時間になるはずだと思って、静かに部室を後にした。