ごめん、好き。

別に、盗み聞きするつもりなんてない。

ない……けど。

愛奈がなんて答えるのか気になって、俺は二人に気づかれないよう、少しだけ近づいた。

「えっと……まずは、ありがとう」

愛奈の声が聞こえる。

「でも、ごめんなさい。日向(ひゅうが)くんの気持ちには応えられない」

――断った?

その言葉を聞いた瞬間、胸を撫で下ろしている自分がいた。

……最低だな、俺。

愛奈が幸せになれるなら、相手が俺じゃなくてもいい。

ずっとそう思っていたはずなのに。

愛奈が日向の告白を断ったことに、俺は心の底から安心していた。

「……理由、聞いてもいい?」

日向が尋ねる。

少しの沈黙のあと、愛奈がゆっくりと口を開いた。

「……私ね、好きな人がいるの」

――え。

「だから、ごめん」

さっきまで安心していたはずの胸が、一瞬で苦しくなる。

好きな人……いるんだ。

愛奈に、好きな男がいた。

誰だよ。

いつから?

俺の知ってるやつ?

いくつもの疑問が頭に浮かぶ。

でも――

きっと、俺じゃない。

だって俺は昨日、愛奈自身に言ったばかりだ。

『こいつとはただの幼なじみ。それ以上でも、それ以下でもない』

もし愛奈が俺を好きだったなら。

あんなことを言った俺は、どれだけ愛奈を傷つけたんだろう。

……いや。

そんな都合のいいこと、あるわけないか。

「そっか……」

日向が寂しそうに呟く。

これで終わりかと思った。

だけど。

「でも俺、諦めないから」

「え?」

「今すぐ俺のこと好きになってほしいなんて言わない。愛奈ちゃんに好きな人がいるなら、それでもいい」

日向は真っ直ぐ愛奈を見つめていた。

「それでも俺、愛奈ちゃんが俺のこと好きになってくれるまで、アプローチするから」

「日向くん……」

その言葉を聞いた瞬間。

さっきとは違う意味で、胸がざわついた。

――諦めない?

じゃあ、もし。

このまま俺が何もしないでいたら。

いつか愛奈が、あいつを好きになることだって――。

「……嫌だ」

思わず、小さく声が漏れた。

愛奈を取られたくない。

初めて、はっきりそう思った。

俺だって。

俺だって、愛奈が好きなのに。

このまま何もしなかったら、勝てるわけがない。

――俺も、動かなきゃ。