ごめん、好き。

授業が終わると、俺は真っ先に愛奈のところへ向かった。

「愛奈……! あのさ……」

声をかけると、愛奈はゆっくりと俺を見る。

いつもの愛奈とは違う。

どこか怒っているような、それでいて悲しそうな顔。

やっぱり、朝のこと怒ってるのか……?

「……悪いけど、もう話しかけてこないでくれる?」

「え……?」

思ってもいなかった言葉に、頭が真っ白になる。

話しかけてくるなって……。

朝のことで、そこまで怒るか?

でも、もし俺の言葉で愛奈を傷つけたのなら、このままにはしておけない。

「愛奈、ごめん。俺……朝の言い方、悪かったよな」

「……」

「でも、あれはそういうつもりじゃなくて……。俺と付き合ってるなんて思われたら、愛奈が迷惑するかなって……」

違う。

こんなことを言いたいんじゃない。

本当は――

『俺は、愛奈と付き合いたい』

そう言えばいいだけなのに。

喉まで出かかったその言葉を、俺はまた飲み込んだ。

「……朝のことは、怒ってないよ」

愛奈が小さな声で呟く。

「康太は何も悪くない。何も……」

そう言いながら俯いた愛奈の手が、微かに震えていた。

俺は知っている。

愛奈は昔から、怒っているときよりも、怒りと悲しみを必死に堪えているときに手が震える。

「愛奈……?」

「ただ……」

愛奈がぎゅっとスカートを握りしめる。

「私たち、ずっと一緒にいたじゃん」

「うん」

「だから……康太にとっても、私って少しくらい特別なのかなって勝手に思ってた」

胸が、ドクンと鳴った。

「でも今日、分かったから」

愛奈は顔を上げると、無理やり笑った。

「康太にとって私は、本当にただの幼なじみなんだなって」

「……愛奈」

違う。

そうじゃない。

ただの幼なじみなんかじゃない。

俺にとって愛奈は――。

「だからさ、ちょっとだけ……距離置こう?」

愛奈は笑っていた。

だけど、その瞳には今にもこぼれ落ちそうな涙が浮かんでいた。

俺は何か言わなきゃいけないのに。

今ここで、本当の気持ちを伝えればいいだけなのに。

それなのに――。

「……分かった」

俺の口から出たのは、

一番言ってはいけない言葉だった。