ごめん、好き。

そんなくだらない会話をしながら歩いていると、あっという間に教室の前まで着いてしまった。

「じゃ、またあとで」

「うん」

教室に入れば、愛奈は愛奈の友達と、俺は俺の友達と過ごす。

同じクラスなのに、学校では意外と話すことが少ない。

だから俺にとって、朝の登校時間は愛奈と二人きりでいられる貴重な時間だった。

俺たちは教室の扉を開け、それぞれ自分の席へ向かう。

鞄を置いていると、近くにいた女子たちが何やらざわつき始めた。

「ねえねえ、前から気になってたんだけどさ」

声をかけてきたのは梨沙。

クラスでも目立つ美人で、こういう恋愛話や噂話には目がない。

「愛奈と康太ってさー、付き合ってんの?」

「えっ?」

突然の質問に、愛奈が俺を見る。

その視線に気づいて、俺も愛奈を見つめ返した。

なんだよ、その顔。

助けを求めてる……のか?

一瞬、なんて答えようか迷った。

本当なら――

『俺は付き合いたいけど』

なんて言えたらいい。

でも、そんな勇気があるわけもなくて。

「ねえよ。こいつとはただの幼なじみ。それ以上でも、それ以下でもない」

俺は照れ隠しに、そう即答した。

「……そっか」

愛奈が一瞬だけ俯く。

けれど、すぐにいつもの笑顔に戻って、

「だ、だよね〜! 私たちが付き合うとか、ないない!」

そう言って笑った。

俺もつられて笑う。

でも――。

なんだろう。

愛奈は笑っているはずなのに、その目だけは笑っていないような気がした。

もしかして俺、今の言い方で愛奈を傷つけた?

……いや。

そんなわけないか。

愛奈が俺のことを好きなわけないんだから。

このときの俺はまだ知らなかった。

たった一言が、

俺たちの関係を大きく変えてしまうことを――。