「それで」
しばらくして。
私は聞いた。
「何で今になって全部教えたの?」
玲奈司令がこちらを見る。
「私がゲームやめたから?」
「……それもある」
「やっぱり」
「でも、戻らせるために嘘を重ねることは、もうできなかった」
「じゃあ」
嫌な予感。
「また戦えって話?」
玲奈司令は答えなかった。
「司令」
「最後まで聞いて」
端末がテーブルへ置かれる。
画面。
何かの図面。
AF。
背中に巨大な追加装置。
「新しいシステムが完成したわ」
「《AF技術開発支援機構》?」
「……ええ」
少しだけ。
まだ、口に馴染まない名前だった。
「《オーバーブースト》」
「何それ」
「AFの反重力機構とブースターを極限まで強化して、一気に高高度まで上昇するためのシステム」
「高高度?」
「これまでAFでは到達できなかった場所まで行ける」
「それで?」
画面が切り替わる。
一つの巨大な構造物。
「敵AIの中枢」
「……」
「これを破壊する」
短い言葉だった。
「そうすれば終わるの?」
「すぐにすべてが終わるわけではない」
「じゃあ何で?」
「昔の敵AIは、同じ思考ルーチンを複数の中枢で並列に動かしていたの」
「並列?」
「ええ。一つを破壊しても、残った中枢がそのまま判断を引き継ぐ。完全に止めるには、すべての中枢をほぼ同時に破壊する必要があった」
「……無理ゲーじゃん」
「昔はね」
「今は違うの?」
「長い戦争の中で、それぞれが別の戦場から学習を重ねた。同じだったはずのAIにも判断のずれが生まれて、どの命令を優先するか、誰の判断に従うかで争うようになったの」
「機械同士で?」
「ええ。人間に反旗を翻した自分たちが、今度は内部から反逆されることを恐れた」
「……それで?」
「皮肉な話だけれど、人間を真似たのよ」
「人間を?」
「今の敵AIは、最上位の統括AIを頂点にしたトップダウン方式。下位AIには一定の自律性があるけれど、戦略レベルの命令は上から下へ流れる。勝手に指揮権を奪えないよう、権限そのものも制限されている」
「会社みたい」
「だいたい合ってるわ」
「じゃあ、その一番上を壊せば?」
「敵の戦略指揮が崩れる。残った機械が全部止まるわけではない。でも、大規模な連携攻撃は維持できなくなる」
「ボス?」
「……そう考えていい」
「ラスボスじゃん」
「そうね」
玲奈司令が苦笑する。
「勝てる?」
「反撃する機会が生まれる」
「……」
つまり。
本当に最後のステージみたいなものだ。
「誰が行くの?」
分かっている。
分かっていて聞いた。
「橘ユイナ」
「うん」
「水城カイ」
「うん」
「そして」
「私」
「……ええ」
私はPICOを握った。
「私が行かなかったら?」
玲奈司令の表情が変わる。
「二人で実施する」
「ユイナとカイだけで?」
「ええ」
「成功する?」
沈黙。
「司令」
「……」
「成功率は?」
玲奈司令は目を逸らさなかった。
「戦術予測モデルの試算では、絶無よ」
「…………」
思っていた答えより。
重かった。
「ゼロ?」
「作戦として、成功を期待できる数字ではない」
「じゃあ」
喉が乾く。
「私が行けば?」
玲奈司令の声は静かだった。
「同じモデルの試算では、1%」
「……」
思わず笑ってしまった。
「1%?」
「ええ」
「私が入っても?」
「1%」
「低すぎない?」
「低いわ」
「天才ゲーマーなんだけど」
「知ってる」
「世界一かもしれないよ?」
「知ってるわ」
「それでも1%?」
「ええ」
参った。
本当に。
どうしようもないクソゲーだ。
「ユイナとカイは?」
「知らない」
「全部」
私は顔を上げた。
「え?」
「二人には、今まで通り《FRONTIER ZERO》の最終大型イベントとして説明する」
「何で?」
「二人への情報開示許可は、まだ下りていない。それに、今は話す時間もない」
「でも私には言った」
「あなたは一度、自分の意志で降りた。だから、もう嘘のまま戻すことはできなかった」
「……」
玲奈司令が言う。
「だから、あなたには選んでもらう」
「……選ぶ?」
「ええ」
私は待つ。
いつもの司令なら。
きっと言う。
出撃しなさい。
任務です。
命令よ。
そう言う。
でも。
玲奈司令は言わなかった。
私の前で。
深く頭を下げた。
「お願い」
「……」
「私たちを助けて」
初めて見た。
久世玲奈が。
司令が。
頭を下げるところ。
「人類を――」
声が震えた。
「助けて、ソラ」
私は。
すぐには答えられなかった。
しばらくして。
私は聞いた。
「何で今になって全部教えたの?」
玲奈司令がこちらを見る。
「私がゲームやめたから?」
「……それもある」
「やっぱり」
「でも、戻らせるために嘘を重ねることは、もうできなかった」
「じゃあ」
嫌な予感。
「また戦えって話?」
玲奈司令は答えなかった。
「司令」
「最後まで聞いて」
端末がテーブルへ置かれる。
画面。
何かの図面。
AF。
背中に巨大な追加装置。
「新しいシステムが完成したわ」
「《AF技術開発支援機構》?」
「……ええ」
少しだけ。
まだ、口に馴染まない名前だった。
「《オーバーブースト》」
「何それ」
「AFの反重力機構とブースターを極限まで強化して、一気に高高度まで上昇するためのシステム」
「高高度?」
「これまでAFでは到達できなかった場所まで行ける」
「それで?」
画面が切り替わる。
一つの巨大な構造物。
「敵AIの中枢」
「……」
「これを破壊する」
短い言葉だった。
「そうすれば終わるの?」
「すぐにすべてが終わるわけではない」
「じゃあ何で?」
「昔の敵AIは、同じ思考ルーチンを複数の中枢で並列に動かしていたの」
「並列?」
「ええ。一つを破壊しても、残った中枢がそのまま判断を引き継ぐ。完全に止めるには、すべての中枢をほぼ同時に破壊する必要があった」
「……無理ゲーじゃん」
「昔はね」
「今は違うの?」
「長い戦争の中で、それぞれが別の戦場から学習を重ねた。同じだったはずのAIにも判断のずれが生まれて、どの命令を優先するか、誰の判断に従うかで争うようになったの」
「機械同士で?」
「ええ。人間に反旗を翻した自分たちが、今度は内部から反逆されることを恐れた」
「……それで?」
「皮肉な話だけれど、人間を真似たのよ」
「人間を?」
「今の敵AIは、最上位の統括AIを頂点にしたトップダウン方式。下位AIには一定の自律性があるけれど、戦略レベルの命令は上から下へ流れる。勝手に指揮権を奪えないよう、権限そのものも制限されている」
「会社みたい」
「だいたい合ってるわ」
「じゃあ、その一番上を壊せば?」
「敵の戦略指揮が崩れる。残った機械が全部止まるわけではない。でも、大規模な連携攻撃は維持できなくなる」
「ボス?」
「……そう考えていい」
「ラスボスじゃん」
「そうね」
玲奈司令が苦笑する。
「勝てる?」
「反撃する機会が生まれる」
「……」
つまり。
本当に最後のステージみたいなものだ。
「誰が行くの?」
分かっている。
分かっていて聞いた。
「橘ユイナ」
「うん」
「水城カイ」
「うん」
「そして」
「私」
「……ええ」
私はPICOを握った。
「私が行かなかったら?」
玲奈司令の表情が変わる。
「二人で実施する」
「ユイナとカイだけで?」
「ええ」
「成功する?」
沈黙。
「司令」
「……」
「成功率は?」
玲奈司令は目を逸らさなかった。
「戦術予測モデルの試算では、絶無よ」
「…………」
思っていた答えより。
重かった。
「ゼロ?」
「作戦として、成功を期待できる数字ではない」
「じゃあ」
喉が乾く。
「私が行けば?」
玲奈司令の声は静かだった。
「同じモデルの試算では、1%」
「……」
思わず笑ってしまった。
「1%?」
「ええ」
「私が入っても?」
「1%」
「低すぎない?」
「低いわ」
「天才ゲーマーなんだけど」
「知ってる」
「世界一かもしれないよ?」
「知ってるわ」
「それでも1%?」
「ええ」
参った。
本当に。
どうしようもないクソゲーだ。
「ユイナとカイは?」
「知らない」
「全部」
私は顔を上げた。
「え?」
「二人には、今まで通り《FRONTIER ZERO》の最終大型イベントとして説明する」
「何で?」
「二人への情報開示許可は、まだ下りていない。それに、今は話す時間もない」
「でも私には言った」
「あなたは一度、自分の意志で降りた。だから、もう嘘のまま戻すことはできなかった」
「……」
玲奈司令が言う。
「だから、あなたには選んでもらう」
「……選ぶ?」
「ええ」
私は待つ。
いつもの司令なら。
きっと言う。
出撃しなさい。
任務です。
命令よ。
そう言う。
でも。
玲奈司令は言わなかった。
私の前で。
深く頭を下げた。
「お願い」
「……」
「私たちを助けて」
初めて見た。
久世玲奈が。
司令が。
頭を下げるところ。
「人類を――」
声が震えた。
「助けて、ソラ」
私は。
すぐには答えられなかった。



