《大規模レイド作戦》。予告から数日、私たちに回ってきたのはいつも通りの実習だった。ただ、《いつも通り》と呼ぶには、少しずつおかしくなっていた。
◇
一日目。
ミッションは市街地の施設防衛。
最初に表示された敵は二十一機。
「今日は普通じゃん」
私はそう言った。
十五分後。
『追加ウェーブを確認』
「……まあ、一回くらいなら」
さらに七分後。
『追加ウェーブを確認』
「二回目?」
さらに五分後。
『追加ウェーブを確認』
「三回目!?」
結局、敵は四十機を超えた。勝ったけど、納得はいかない。
「司令。最初に表示された敵の数って何の意味があるの?」
「初期配置です」
「追加ウェーブ三回来るって最初から教えてよ!」
「追加回数は非公開です」
「またそれ! ゲーム開発部に言っといて。敵を増やすなら、せめてブースト容量も増やしてって」
「要望は送っています」
「じゃあ何で直ってないの!」
玲奈司令は一瞬黙り、「……ゲームバランスの調整ということにしておきなさい」とだけ答えた。
◇
二日目。
輸送ユニット護衛。
途中で、見たことのない長距離砲撃型マキナが出てきた。
「新敵キャラ!?」
『そのようね』
「敵だけ新要素の実装早くない!?」
射程はこっちの倍近い。
護衛ルートの先は、崩れた高層街だった。
道路はところどころ陥没し、輸送ユニットは一本の大通りをゆっくり進んでいる。
その時、レーダーのずっと外側に、今まで見たことのない細長い反応が現れた。
『長距離砲撃型、射撃姿勢へ移行』
玲奈司令の声とほとんど同時。
遠くのビル群の向こうで、黒い機体が背中の砲身を持ち上げた。
普通の砲撃型より一回り細い。脚部を道路へ突き立て、全身を固定している。
次の瞬間、砲口が白く光った。
「遠っ!」
着弾。
輸送ルート脇の建物が吹き飛び、画面いっぱいに砂埃が広がった。
『射程、こっちの倍くらいある』
カイ。
「何それ! 敵だけ急に別ゲーム始めてない!?」
『次弾まで二十八秒』
「二十八秒であそこまで行けって!?」
『ソラなら二十四』
「何で計算済みなの!?」
『行く?』
「行くしかないでしょ!」
私は護衛ルートから一気に前へ出た。ブースターを最大出力。廃墟の景色が後ろへ弾ける。
『左から人型二』
「邪魔!」
一機をかわし、もう一機の肩を撃ち抜く。止まらない。
『砲撃型、再照準』
「させるか!」
最後のブーストで跳び上がり、背部装甲の継ぎ目へ射撃。長い砲身が根元から弾けた。
《ENEMY DESTROYED》
「新キャラ実装するなら、こっちにも新装備ちょうだいよ!」
『ソラ、ブースト残量九』
カイ。
「今それ言わないで!」
『帰れる?』
「帰る!」
反転する。
帰路ではユイナが輸送ルートへ迫った四脚型をまとめて叩き、カイが飛行型を遠距離から落としていた。
三人とも忙しい。
ミッションは成功した。けれど終了後、私は司令へ噛みついた。
「敵は新しいの出す! 数も増える! なのにこっちは昨日と同じ機体!」
「ゲーム開発部には伝えてあります」
「いつ強くなるの?」
「次のアップデートに期待しなさい」
「運営みたいなこと言わないで!」
◇
三日目は偵察ミッションだった。三地点を回るだけ――のはずが、第二地点で《ミッション条件を更新》。
《偵察》が消え、《拠点防衛》へ変わった。
「司令! 偵察だけって言ったよね!?」
『状況が変化しました』
「ゲームの途中でルール変えないでよ!」
敵が次々と現れ、結局その日も戦闘になった。勝ちはした。でも、《MISSION COMPLETE》を見ても前ほど嬉しくない。
「これ、難しいんじゃなくて雑じゃない? 上手くなったら敵増やして、クリアしたら条件足して。ゲームって、もっと遊ぶ側のこと考えて作るものでしょ」
「それから、前から一個気になってたんだけど」
「まだあるの?」
「ある!」
私は戦闘ログをさらに巻き戻した。
画面いっぱいに、細い筋が何本も走っている。上から下へ。絶え間なく。
「これ!」
「……何?」
「この、画面の上から水みたいなのがずっと落ちてくるやつ。あれ何の意味があるの?」
「意味?」
「視界悪くしたいだけなら、画面暗くするとか命中率下げるとかでよくない? なんで水なの?」
玲奈司令は、ほんの一瞬だけ黙った。
「……普通のデバフでは、あなたたちならすぐ対応するでしょう」
「え?」
「シナリオ開発部が考えた、新しいタイプのデバフよ」
「水が?」
「実際、見えにくくなるのでしょう?」
「なるけど!」
「なら効果は出ています」
「このゲーム開発してる連中、どういう思考してんのよほんとに!」
「少なくとも、あなたたちを簡単に勝たせる気はないみたいね」
「それはもう十分わかってる!」
「今日は終わりです」
「また逃げた!」
◇
一日目。
ミッションは市街地の施設防衛。
最初に表示された敵は二十一機。
「今日は普通じゃん」
私はそう言った。
十五分後。
『追加ウェーブを確認』
「……まあ、一回くらいなら」
さらに七分後。
『追加ウェーブを確認』
「二回目?」
さらに五分後。
『追加ウェーブを確認』
「三回目!?」
結局、敵は四十機を超えた。勝ったけど、納得はいかない。
「司令。最初に表示された敵の数って何の意味があるの?」
「初期配置です」
「追加ウェーブ三回来るって最初から教えてよ!」
「追加回数は非公開です」
「またそれ! ゲーム開発部に言っといて。敵を増やすなら、せめてブースト容量も増やしてって」
「要望は送っています」
「じゃあ何で直ってないの!」
玲奈司令は一瞬黙り、「……ゲームバランスの調整ということにしておきなさい」とだけ答えた。
◇
二日目。
輸送ユニット護衛。
途中で、見たことのない長距離砲撃型マキナが出てきた。
「新敵キャラ!?」
『そのようね』
「敵だけ新要素の実装早くない!?」
射程はこっちの倍近い。
護衛ルートの先は、崩れた高層街だった。
道路はところどころ陥没し、輸送ユニットは一本の大通りをゆっくり進んでいる。
その時、レーダーのずっと外側に、今まで見たことのない細長い反応が現れた。
『長距離砲撃型、射撃姿勢へ移行』
玲奈司令の声とほとんど同時。
遠くのビル群の向こうで、黒い機体が背中の砲身を持ち上げた。
普通の砲撃型より一回り細い。脚部を道路へ突き立て、全身を固定している。
次の瞬間、砲口が白く光った。
「遠っ!」
着弾。
輸送ルート脇の建物が吹き飛び、画面いっぱいに砂埃が広がった。
『射程、こっちの倍くらいある』
カイ。
「何それ! 敵だけ急に別ゲーム始めてない!?」
『次弾まで二十八秒』
「二十八秒であそこまで行けって!?」
『ソラなら二十四』
「何で計算済みなの!?」
『行く?』
「行くしかないでしょ!」
私は護衛ルートから一気に前へ出た。ブースターを最大出力。廃墟の景色が後ろへ弾ける。
『左から人型二』
「邪魔!」
一機をかわし、もう一機の肩を撃ち抜く。止まらない。
『砲撃型、再照準』
「させるか!」
最後のブーストで跳び上がり、背部装甲の継ぎ目へ射撃。長い砲身が根元から弾けた。
《ENEMY DESTROYED》
「新キャラ実装するなら、こっちにも新装備ちょうだいよ!」
『ソラ、ブースト残量九』
カイ。
「今それ言わないで!」
『帰れる?』
「帰る!」
反転する。
帰路ではユイナが輸送ルートへ迫った四脚型をまとめて叩き、カイが飛行型を遠距離から落としていた。
三人とも忙しい。
ミッションは成功した。けれど終了後、私は司令へ噛みついた。
「敵は新しいの出す! 数も増える! なのにこっちは昨日と同じ機体!」
「ゲーム開発部には伝えてあります」
「いつ強くなるの?」
「次のアップデートに期待しなさい」
「運営みたいなこと言わないで!」
◇
三日目は偵察ミッションだった。三地点を回るだけ――のはずが、第二地点で《ミッション条件を更新》。
《偵察》が消え、《拠点防衛》へ変わった。
「司令! 偵察だけって言ったよね!?」
『状況が変化しました』
「ゲームの途中でルール変えないでよ!」
敵が次々と現れ、結局その日も戦闘になった。勝ちはした。でも、《MISSION COMPLETE》を見ても前ほど嬉しくない。
「これ、難しいんじゃなくて雑じゃない? 上手くなったら敵増やして、クリアしたら条件足して。ゲームって、もっと遊ぶ側のこと考えて作るものでしょ」
「それから、前から一個気になってたんだけど」
「まだあるの?」
「ある!」
私は戦闘ログをさらに巻き戻した。
画面いっぱいに、細い筋が何本も走っている。上から下へ。絶え間なく。
「これ!」
「……何?」
「この、画面の上から水みたいなのがずっと落ちてくるやつ。あれ何の意味があるの?」
「意味?」
「視界悪くしたいだけなら、画面暗くするとか命中率下げるとかでよくない? なんで水なの?」
玲奈司令は、ほんの一瞬だけ黙った。
「……普通のデバフでは、あなたたちならすぐ対応するでしょう」
「え?」
「シナリオ開発部が考えた、新しいタイプのデバフよ」
「水が?」
「実際、見えにくくなるのでしょう?」
「なるけど!」
「なら効果は出ています」
「このゲーム開発してる連中、どういう思考してんのよほんとに!」
「少なくとも、あなたたちを簡単に勝たせる気はないみたいね」
「それはもう十分わかってる!」
「今日は終わりです」
「また逃げた!」


