ソラはまだ空を知らない

二日後。
また、三人で同時に動かなければならないミッションが来た。
今度は敵の観測装置三基の破壊。
玲奈司令がスクリーンに三基の装置を映した。
黒い三脚の塔みたいな形で、高さはAFの倍近い。上部には皿状のセンサーが何枚も重なり、ゆっくり別々の方向へ回転している。
「観測装置は相互接続されています。一基が破壊されても、残り二基が生きていれば予備系統から再起動する」
「嫌な仕様」
「三基の破壊間隔を八秒以内に収めてください」
「八秒?」
「九秒目には最初の一基が再起動を開始します」
続いて護衛敵。
「第一地点は人型中心。第二は四脚型。第三には砲撃型が確認されています。飛行型は三地点を巡回」
カイが地図を見た。
「第三が一番危ない」
「ええ。高台から砲撃型の射線が通る」
「じゃあカイ、第三でいい?」
「そのつもり」
ユイナが腕を組む。
「私は第一。敵が多い方」
「予想通りすぎる」
「ソラは第二。全体を見て調整しなさい」
「了解、司令!」
三基は互いに連動していて、一基だけ壊しても短時間で再起動する。
三つをほぼ同時に破壊すること。
それが勝利条件だった。
「また三つ」
私はマップを見る。
「ゲーム開発部、三って数字好きなの?」
「知らないわ」
玲奈司令。
「今回は勝つよ」
「そう」
「反応薄い!」
「結果で示しなさい」
「言ったね?」
左右を見る。
ユイナ。
カイ。
「行こっか」
『了解』
『うん』

第一観測装置。
ユイナが一番先に到着した。
『ソラ、もう壊していい?』
「待って!」
『目の前にあるんだけど!』
「待つ!」
『敵もいる!』
「それは倒していい!」
『どっちなのよ!』
通信越しに銃声が響く。
でも。
ユイナの青いマーカーは、ちゃんと観測装置の近くに残っている。
追いかけていない。
「えらい!」
『子ども扱いするな!』
第二。
私の正面には人型マキナ六機。
六機はほぼ同じ外形なのに、持っている武器が違った。四機は長銃。二機は片腕に短い刃。
前列の射撃型が一歩ずつ間隔を変えながら撃ち、近接型はその火線の陰に隠れるように距離を詰めてくる。赤い単眼センサーだけが、全機ほとんど同時にこちらへ向いた。
「そういう連携、こっちが覚えた途端に敵までやるのやめて!」
全部倒す。
……いや。
「カイ、そっちどう?」
『第三まであと二百。正面四、右から増援三。接触まで十五秒』
「すごいちゃんと報告する!」
『決めたから』
「じゃあ右の三機、私から射線通る。二機もらう」
『任せる』
私は自分の正面にいた六機のうち、四機だけを片付けた。
残り二機。
いつもの私なら全部倒す。
でも。
『ソラ』
「何?」
『残り二機、こっちから見える』
カイ。
「……任せた!」
『了解』
二発。
遠くから飛んできた弾丸が、二機を正確に撃ち抜いた。
「便利!」
『人を道具みたいに言わないで』
「褒めてる!」
私は第二観測装置へ到着した。
『第三、到着』
カイ。
「全員着いた!」
『やっと壊していい!?』
ユイナが待ちきれない声を出す。
「まだ!」
『まだ!?』
「同時だから!」
HUDを確認する。
三基。
全部射程内。
敵の増援。
第一へ五。
第二へ四。
第三へ――
『第三、砲撃型一。射線を取られるまで十二秒』
「カイ、いける?」
『いける』
「《問題ない》じゃない!」
『十二秒は持つ』
「よし!」
ユイナ。
『第一、いつでも!』
「カイ!」
『射線、開いた』
「私も!」
右手のトリガーへ指をかける。
「三!」
敵が走ってくる。
「二!」
ユイナの機体が踏み込む。
「一!」
カイの照準マーカーが止まる。
「今!」
三人同時。
三つの観測装置が爆発した。
画面上の赤いアイコンが消える。
一秒。
二秒。
再起動しない。
そして。
《MISSION COMPLETE》
「っしゃあ!」
私は操縦桿から片手を離して拳を握った。
『当然!』
ユイナ。
『……勝った』
カイ。
「カイ、ちょっと嬉しそう!」
『少し』
「ほら! やっぱゲーム楽しいじゃん!」
『勝てたから』
「またそういうこと言う!」

リザルト。
撃破数トップは、やっぱりユイナ。
でも以前ほど突出していない。
機体損傷率――21%。
「二十一!」
「何よ」
「ユイナの機体に両腕と両脚がある!」
「あるわよ!」
「頭もある!」
「馬鹿にしてる!?」
カイの損傷率は4%。
私は16%。
個人の撃破数だけなら、前回より少ない。
それでも。
総合評価。
《S》
「よし!」
「当然ね」
「今回は」
玲奈司令が言った。
「三人で戦えていました」
「前も三人だったけど?」
「人数の話ではありません」
「分かってるって」
私は笑った。
ユイナを見る。
「勝手に出なかった」
「当たり前」
カイを見る。
「ちゃんと喋った」
「普段も喋ってる」
「情報量が違った!」
そして二人が私を見る。
「何?」
「ソラも」
ユイナが言う。
「ちゃんと任せたじゃない」
「……まあね」
「偉い」
「子ども扱いするな!」
今度は私が言う番だった。
カイがほんの少し笑う。
玲奈司令も。
本当に少しだけ。
口元を緩めた。
「今、笑った!」
「笑っていません」
「笑ったわよ」
ユイナまで乗ってくる。
「僕も見た」
「三対一!」
「多数決で事実は変わりません」
「じゃあ褒めてよ。昨日から頑張ったんだから」
玲奈司令は一度だけ咳払いした。
「……よくできました」
「録音!」
「してない」
カイ。
「カイ、今からして!」
「無理」
「二度は言いません」
「ケチ!」
「司令」
「何?」
「チームで勝ったボーナスとかないの?」
「ありません」
「ケチ!」
「実習です」
「またそれ!」
「あ、そうだ司令」
「何?」
「次の休み、三人でゲームセンター行くんだけど。司令も来る?」
「行きません」
「即答!」
「私はあなたたちの友達ではなく、担当責任者です」
「……それは分かってるけど」
少しだけ、つまらない。
顔に出たのか。
「ただ」
「何?」
「月曜日に、誰が勝ったかくらいは聞きます」
「気になるんじゃん!」
「報告事項としてです」
「絶対嘘!」
玲奈司令は答えなかった。
でも。
また少しだけ、笑っていた。

三人とも強い。それは前から知っていた。でも、三人で強くなるのは少し違った。ユイナが任せる。カイが伝える。私が全部をやろうとしない。たったそれだけで、一人では無理だったことができた。
「三人なら、だいたい何とかなるんじゃない?」
実習棟を出ながら私が言うと。
「だいたいって何よ」
ユイナが笑った。
「大体」
カイも言った。
「カイまで!」
私は二人の間で笑った。
頭の上では、いつもの光が街をすっぽり包んでいた。
三人なら勝てる。
少なくとも。
その時の私は、本気でそう思っていた。