ソラはまだ空を知らない

「納得いかない!」
ハーネスを外すなり叫んだ。
「敵は全部倒したじゃん!」
「全部ではない」
カイが訂正する。
「ほとんど!」
「でも負けた」
「それは分かってる!」
リザルトを開く。
撃破数。
橘ユイナ――34。
七瀬ソラ――29。
水城カイ――13。
個人評価は悪くない。
むしろ高い。
なのに総合評価。
《D》
「D!?」
「任務失敗だから当然」
「カイは悔しくないの!?」
「悔しい」
「顔に出して!」
「無理」
ユイナが腕を組む。
「そもそもソラが動きすぎなのよ」
「は!?」
「第二から何回離れた?」
「ユイナとカイを助けるため!」
「私は頼んでない!」
「頼まれる前に行ったんでしょ!」
「ユイナは範囲から出た」
カイ。
「だって砲撃型が!」
「僕は敵が増えたことを言わなかった」
「そう! カイも悪い!」
「うん」
「素直に認めると怒りづらい!」
「三人とも」
玲奈司令の声。
私たちは同時に黙った。
「今回、技量不足で負けたと思っていますか?」
「違う」
カイが答える。
「私だってもっと倒せたわ」
ユイナ。
「私も!」
「でしょうね」
玲奈司令は大型スクリーンへ三人の移動経路を表示した。
赤、青、黄色の線。
私の線だけ、マップ中をぐちゃぐちゃに走っている。
「うわ」
「七瀬ソラ。あなたは二人の穴をすべて自分で埋めようとした」
「だってできるから」
「結果、自分の担当地点を失った」
「……はい」
「橘ユイナ。あなたは自分が倒せる敵を、すべて自分で倒そうとした」
「倒せます」
「担当地点を離れてまで?」
「……はい」
「水城カイ。あなたは自分の担当だけで完結させようとした」
「処理できると思った」
「他の二人が状況を知らないままで?」
「……はい」
玲奈司令は三本の線を見る。
「あなたたちは三人とも優秀です」
「褒められた」
「最後まで聞きなさい」
「はい」
「三人とも、一人で勝とうとしている」
「…………」
誰も言い返さなかった。
「三人いるのに、三人で戦っていない」
「……じゃあ、どうすればいいの?」
私が聞いた。
「それを私に聞くの?」
「司令でしょ」
「ええ。だからこそ、今回は答えを教えません」
「は?」
「私が《ユイナはここ、カイはこう、ソラは動くな》と命令すれば、次の一回は勝てるかもしれない」
玲奈司令はスクリーンを消した。
「でも、その次に別の状況が来たら?」
「……また司令に聞く」
「それでは三人のチームではなく、私の駒が三つあるだけよ」
「言い方きつい!」
「わざと言っています」
司令は部屋の端から、小さなホワイトボードを引っ張ってきた。
机の上へ三本のペンを置く。
「三十分」
「何が?」
「今日の敗因を、自分たちの言葉で書きなさい」
「反省文!?」
「文章にしなくていいわ。ただし《頑張る》《気をつける》《もっと連携する》は禁止」
「何で!?」
「次に何をするのか分からない言葉だから」
カイがペンを一本取った。
「合理的」
「カイ、こういう時だけ司令側につく!」
「帰っても構いません」
玲奈司令が言う。
「え?」
「これは命令ではないわ。帰りたければ帰っていい」
「……」
「ただし、原因が分からないままなら、次も同じ負け方をするでしょうね」
「やる!」
「私も」
「うん」
三人とも即答した。

十分後。
ホワイトボードは、だいぶ性格の悪い内容になっていた。
《ユイナ――倒せる敵を見ると持ち場を忘れる》
「書き方!」
「事実」
カイ。
《カイ――自分で処理できると思うと情報を出さない》
「……事実」
《ソラ――人の仕事まで勝手にやる》
「私だけ言い方ひどくない!?」
「事実」
「二人とも!」
玲奈司令は少し離れた場所で腕を組み、口を挟まない。
「司令、何か言ってよ」
「私が書いたら意味がないでしょう」
「でも見てるじゃん」
「見ています。あなたたちを見るのが仕事ですから」
私は三つの項目を見た。別々に見える。でも――
「……これ、全部同じじゃない?」
「何が?」
ユイナ。
「自分で何とかできるって思ってる」
カイがボードを見る。
「一人で完結しようとしてる」
「あ」
ユイナも気づいた。
私は三つの項目を大きな丸で囲んだ。
その横へ書く。
《一人で勝とうとしない》
「それなら」
初めて玲奈司令が近づいてきた。
「次は、その言葉を行動に変えなさい」
「具体的には?」
「宿題」
「司令!」
「明日の昼休みまでに三人で決めること」
「学校みたい!」
「学校の実習です」
「それ言われると何も返せない!」
玲奈司令が、ほんの少し笑った。
悔しいけど。
私たちも笑った。
それは。
ものすごく。
腹立つくらい。
正しかった。

次の日の昼休み。
昨日、玲奈司令から出された《宿題》を終わらせるため、私たちは三人で机を囲んでいた。
真ん中にはノート。
昨日のホワイトボードを思い出しながら、私がマップを描く。
「まずユイナ」
「何よ」
「勝手に担当区域から出ない」
「敵がいたら?」
「出ない」
「倒せるのに?」
「出ない!」
「つまんない」
「クビになりかけた人が言う!?」
「分かったわよ」
ユイナが頬杖をつく。
「必要なら先に言う。それでいい?」
「うん」
「次、カイ」
「うん」
「《問題ない》禁止」
「……」
「敵九機来てるのに問題ないって何!?」
「処理できた」
「そういう問題じゃない!」
ユイナが笑う。
「敵の数、位置、あとどれくらい持つか。ちゃんと言って」
「分かった」
「最後」
カイが私を見る。
「ソラ」
「……何」
「全部自分でやらない」
「でも私が一番動けるし」
「昨日失敗した」
「ぐっ」
ユイナまで頷く。
「アンタ、人に任せるの下手よね」
「ユイナに言われたくない!」
「私は昨日反省したもの」
「今!?」
「今」
私はノートを見る。
三つの丸。
三人の名前。
「……じゃあ」
ペンで線を引いた。
「誰かが《任せて》って言ったら、任せる」
「うん」
「勝手に助けに行かない」
「うん」
「本当に危なかったら?」
「助けてって言う」
カイが答えた。
「カイが?」
「必要なら」
「そこはちゃんと言ってよ」
「……言う」
「よし」
私はノートを閉じた。
「次は勝つ」
「当然」
「今度は三人で」
ユイナが言う。
カイが小さく頷いた。
「三人で」
少し歩いたところで、ユイナが思い出したように言った。
「そういえば、中央区のゲームセンターに新しい対戦筐体入ったらしいわよ」
「マジで!?」
反射的に食いついた。
「アンタ、さっきまで実習してたでしょうが」
「ゲームとゲームは別!」
カイが本から目だけを上げる。
「意味不明」
「カイも行こうよ。三人で」
「本屋が近いなら」
「そこ基準!?」
「じゃあ決まりね」
ユイナが勝手にまとめる。
「次の休み、三人で行くわよ。今度はゲームでも私が一位取るから」
「それは無理」
「即答するな!」
どうでもいい約束だった。その時は本当に、次の休みなんて当たり前に来ると思っていた。