カイが実習を続けることになってから、三日後。
「今日は過去一調子がいい気がする」
私は実習室へ入るなり言った。
「いつも言ってない?」
ユイナが呆れた顔をする。
「今日は違うの。ユイナは機体を壊さなくなった。カイも辞めない。三人揃ってる。つまり最強」
「理屈が雑」
カイがいつもの調子で言った。
「でも間違ってないでしょ?」
「三人いる、までは事実」
「その先も認めてよ!」
中央の席へ鞄を掛ける。
PICOが揺れた。
右側のパネルに貼った白猫のシールを軽く叩く。
「今日こそ楽なミッションお願いします」
「マスコットへ願っても内容は変わりません」
正面から玲奈司令の声が飛んできた。
「じゃあ司令にお願いします」
「私が決めているわけではありません」
「知ってる。最近そればっかり」
「なら準備を」
「はいはい」
「返事」
「はい、司令!」
三人で操縦席へ座る。
座面が動き、ペダルが足元へ合わせられる。
ハーネスを留める。
左右の操縦桿。
大型モニター。
《AF ONLINE》
「本日のミッションを説明します」
画面に市街地のマップが表示された。
三つの青い円。
それぞれ、かなり離れている。
「三地点に存在する通信中継装置を起動。その状態を九十秒間、同時に維持してください」
玲奈司令が三つの青い円を順番に拡大する。
「各中継装置には有効範囲があります。AFが範囲外へ出ると接続が不安定になり、一定時間を超えれば装置は停止。同期時間も最初からやり直しです」
「つまり持ち場から出るなってこと?」
「基本的には」
続いて赤い敵アイコン。
「敵は地点ごとに別方向から接近します。初期想定は第一八機、第二五機、第三六機。ただし、各地点の戦況に応じて追加配置が発生する可能性があります」
「また増える可能性あるの?」
「あります」
「先に言うだけ偉い」
「褒められている気がしないわね」
敵モデルが並ぶ。四脚型と人型。それから、長い砲身を背負った砲撃型。
「砲撃型は範囲の外側から中継装置を狙う場合があります。追撃するか、装置を守るか。判断は各自で」
ユイナが笑った。
「追って倒せばいいんでしょ」
「今の説明、半分しか聞いてないよね?」
「三人で三つ?」
「そうです」
「一人一個じゃん。簡単」
「敵が来る」
カイが言う。
「来ても一人で守ればいいでしょ」
ユイナが笑った。
「そうそう。私たち三人とも一人で戦えるし」
私は胸を張る。
玲奈司令が一瞬だけ黙った。
「……そうね」
「何その間」
「何でもありません。第一地点を橘ユイナ、第二地点を七瀬ソラ、第三地点を水城カイ」
「了解!」
「はい」
「はーい」
この時の私は、本気で簡単だと思っていた。
◇
開始から七分。
三つの中継装置は全部起動した。
HUDの上部に数字が出る。
《SYNCHRONIZE 01:30》
「九十秒耐えるだけ!」
『第一、敵八』
ユイナの声。
「八なら余裕でしょ」
『当然!』
爆発音。
『一機! 二機!』
「また数えてる」
『撃破数トップなんだから数えるでしょ!』
「そのうちまた壊すよ!」
『壊さない!』
私の第二地点にも四脚型が五機。
五機とも同じ動きではない。二機が真正面から低い姿勢で突っ込み、残り三機は左右の路地へ散った。
先頭の一機が腹部砲を連射する。火線は私ではなく中継装置へ向いていた。別の一機は壁を蹴るように方向を変え、こちらの背後へ回ろうとしている。
「NPCのくせに役割分担してるの腹立つ!」
正面から二機。
左の路地から三機。
ブースト。
一機目を射撃。
二機目へ近接。
着地。
そのまま後ろへ振り向いて三機目。
「はい、終わ――」
『第一、敵増加。十二』
「ユイナ?」
『大丈夫!』
「本当に?」
『大丈夫って言ってるでしょ!』
カウントは六十七秒。
まだいける。
『第三、問題なし』
カイ。
「カイはさすがだね」
『うん』
「そこは謙遜しないんだ」
五十八秒。
五十七。
その時。
『第一中継装置、接続不安定』
「え?」
レーダーを見る。
ユイナの青いマーカーが、中継装置から離れていた。
「ユイナ! どこ行ってんの!?」
『後ろに砲撃型いる! 先に潰す!』
「範囲から出てる!」
『すぐ戻る!』
《SYNCHRONIZE 00:42》
数字が止まった。
「止まったじゃん!」
『あと一機!』
「いいから戻って!」
私はブーストを吹かした。
第二地点を離れて第一へ向かう。
『ソラ』
カイ。
「何!?」
『第二、敵接近』
「分かってる! すぐ戻る!」
『七機』
「七!?」
引き返す。
第一へ行くのをやめて第二へ。
レーダーの端。
第三地点にも赤い点が増えていた。
「カイ、そっちも敵来てるじゃん!」
『処理できる』
「何機!?」
『九』
「それ先に言って!」
『問題ないから』
「問題あるかどうか私にも判断させてよ!」
第二地点へ戻る。
敵を迎撃。
一機。
二機。
三機。
『第一、復帰!』
ユイナ。
「遅い!」
止まっていたカウントが再び動く。
四十一。
四十。
三十九。
『第三、敵十一』
カイの声は変わらない。
「増えてるじゃん!」
『処理中』
「手伝う!」
『いらない』
「でも!」
『第二を維持して』
正しい。
分かってる。
でも。
カイの機体損傷率が少しずつ上がっている。
8%。
13%。
21%。
「……やっぱ行く!」
『ソラ』
「すぐ戻るから!」
第二地点を飛び出した。
その瞬間。
『第二中継装置、接続不安定』
「分かってるって!」
カイの第三地点へ飛ぶ。
敵の背後を取る。
三機まとめて撃破。
『助かった』
「でしょ!」
『第二』
「今戻る!」
振り返った時には遅かった。
『第二中継装置、停止』
HUDの数字が消える。
そして。
《SYNCHRONIZE RESET》
「…………は?」
九十秒。
最初から。
「ちょっと待って!」
『第二を再起動してください』
玲奈司令。
「今までの四十秒は!?」
『無効です』
「そんな!」
そこからは、完全に崩れた。
ユイナが敵を追う。
私が穴を埋めに走る。
カイは自分の場所を守りながら、一人で全部処理しようとする。
一度崩れたタイミングは戻らない。
残り時間。
三分。
二分。
一分。
最後まで三つの装置が揃うことはなかった。
画面中央。
《MISSION FAILED》
「今日は過去一調子がいい気がする」
私は実習室へ入るなり言った。
「いつも言ってない?」
ユイナが呆れた顔をする。
「今日は違うの。ユイナは機体を壊さなくなった。カイも辞めない。三人揃ってる。つまり最強」
「理屈が雑」
カイがいつもの調子で言った。
「でも間違ってないでしょ?」
「三人いる、までは事実」
「その先も認めてよ!」
中央の席へ鞄を掛ける。
PICOが揺れた。
右側のパネルに貼った白猫のシールを軽く叩く。
「今日こそ楽なミッションお願いします」
「マスコットへ願っても内容は変わりません」
正面から玲奈司令の声が飛んできた。
「じゃあ司令にお願いします」
「私が決めているわけではありません」
「知ってる。最近そればっかり」
「なら準備を」
「はいはい」
「返事」
「はい、司令!」
三人で操縦席へ座る。
座面が動き、ペダルが足元へ合わせられる。
ハーネスを留める。
左右の操縦桿。
大型モニター。
《AF ONLINE》
「本日のミッションを説明します」
画面に市街地のマップが表示された。
三つの青い円。
それぞれ、かなり離れている。
「三地点に存在する通信中継装置を起動。その状態を九十秒間、同時に維持してください」
玲奈司令が三つの青い円を順番に拡大する。
「各中継装置には有効範囲があります。AFが範囲外へ出ると接続が不安定になり、一定時間を超えれば装置は停止。同期時間も最初からやり直しです」
「つまり持ち場から出るなってこと?」
「基本的には」
続いて赤い敵アイコン。
「敵は地点ごとに別方向から接近します。初期想定は第一八機、第二五機、第三六機。ただし、各地点の戦況に応じて追加配置が発生する可能性があります」
「また増える可能性あるの?」
「あります」
「先に言うだけ偉い」
「褒められている気がしないわね」
敵モデルが並ぶ。四脚型と人型。それから、長い砲身を背負った砲撃型。
「砲撃型は範囲の外側から中継装置を狙う場合があります。追撃するか、装置を守るか。判断は各自で」
ユイナが笑った。
「追って倒せばいいんでしょ」
「今の説明、半分しか聞いてないよね?」
「三人で三つ?」
「そうです」
「一人一個じゃん。簡単」
「敵が来る」
カイが言う。
「来ても一人で守ればいいでしょ」
ユイナが笑った。
「そうそう。私たち三人とも一人で戦えるし」
私は胸を張る。
玲奈司令が一瞬だけ黙った。
「……そうね」
「何その間」
「何でもありません。第一地点を橘ユイナ、第二地点を七瀬ソラ、第三地点を水城カイ」
「了解!」
「はい」
「はーい」
この時の私は、本気で簡単だと思っていた。
◇
開始から七分。
三つの中継装置は全部起動した。
HUDの上部に数字が出る。
《SYNCHRONIZE 01:30》
「九十秒耐えるだけ!」
『第一、敵八』
ユイナの声。
「八なら余裕でしょ」
『当然!』
爆発音。
『一機! 二機!』
「また数えてる」
『撃破数トップなんだから数えるでしょ!』
「そのうちまた壊すよ!」
『壊さない!』
私の第二地点にも四脚型が五機。
五機とも同じ動きではない。二機が真正面から低い姿勢で突っ込み、残り三機は左右の路地へ散った。
先頭の一機が腹部砲を連射する。火線は私ではなく中継装置へ向いていた。別の一機は壁を蹴るように方向を変え、こちらの背後へ回ろうとしている。
「NPCのくせに役割分担してるの腹立つ!」
正面から二機。
左の路地から三機。
ブースト。
一機目を射撃。
二機目へ近接。
着地。
そのまま後ろへ振り向いて三機目。
「はい、終わ――」
『第一、敵増加。十二』
「ユイナ?」
『大丈夫!』
「本当に?」
『大丈夫って言ってるでしょ!』
カウントは六十七秒。
まだいける。
『第三、問題なし』
カイ。
「カイはさすがだね」
『うん』
「そこは謙遜しないんだ」
五十八秒。
五十七。
その時。
『第一中継装置、接続不安定』
「え?」
レーダーを見る。
ユイナの青いマーカーが、中継装置から離れていた。
「ユイナ! どこ行ってんの!?」
『後ろに砲撃型いる! 先に潰す!』
「範囲から出てる!」
『すぐ戻る!』
《SYNCHRONIZE 00:42》
数字が止まった。
「止まったじゃん!」
『あと一機!』
「いいから戻って!」
私はブーストを吹かした。
第二地点を離れて第一へ向かう。
『ソラ』
カイ。
「何!?」
『第二、敵接近』
「分かってる! すぐ戻る!」
『七機』
「七!?」
引き返す。
第一へ行くのをやめて第二へ。
レーダーの端。
第三地点にも赤い点が増えていた。
「カイ、そっちも敵来てるじゃん!」
『処理できる』
「何機!?」
『九』
「それ先に言って!」
『問題ないから』
「問題あるかどうか私にも判断させてよ!」
第二地点へ戻る。
敵を迎撃。
一機。
二機。
三機。
『第一、復帰!』
ユイナ。
「遅い!」
止まっていたカウントが再び動く。
四十一。
四十。
三十九。
『第三、敵十一』
カイの声は変わらない。
「増えてるじゃん!」
『処理中』
「手伝う!」
『いらない』
「でも!」
『第二を維持して』
正しい。
分かってる。
でも。
カイの機体損傷率が少しずつ上がっている。
8%。
13%。
21%。
「……やっぱ行く!」
『ソラ』
「すぐ戻るから!」
第二地点を飛び出した。
その瞬間。
『第二中継装置、接続不安定』
「分かってるって!」
カイの第三地点へ飛ぶ。
敵の背後を取る。
三機まとめて撃破。
『助かった』
「でしょ!」
『第二』
「今戻る!」
振り返った時には遅かった。
『第二中継装置、停止』
HUDの数字が消える。
そして。
《SYNCHRONIZE RESET》
「…………は?」
九十秒。
最初から。
「ちょっと待って!」
『第二を再起動してください』
玲奈司令。
「今までの四十秒は!?」
『無効です』
「そんな!」
そこからは、完全に崩れた。
ユイナが敵を追う。
私が穴を埋めに走る。
カイは自分の場所を守りながら、一人で全部処理しようとする。
一度崩れたタイミングは戻らない。
残り時間。
三分。
二分。
一分。
最後まで三つの装置が揃うことはなかった。
画面中央。
《MISSION FAILED》


