こいがえり ――変わってしまった君と、変わらない私。

「……雫ちゃん?」




「……」





「雫ちゃん?」




 誰かに名前を呼ばれる。




「……ん」




 雫は、ゆっくり目を開けた。




 そこは、小さな頃の公園ではない。




 高校の教室だった。




「……あ」




「大丈夫?」




 担任の先生が、少し心配そうに雫を見る。




「ぼーっとしてたよ」




「……すみません」




「体調悪い?」




「いえ、大丈夫です」




 反射的にそう答える。




 昔から変わらない癖。




 ――大丈夫。




 本当は少し苦しくても。




 本当は少し辛くても。




 つい、そう言ってしまう。




「無理しないでね」




「……はい」




 先生が離れていく。




 雫は、ゆっくりポーチを開いた。




 その奥。




 小さな貝殻。




「……」




 指先で、そっと触る。




 あの日。




 蓮が海で拾ってくれた。




 雫が行けなかった遠足の。





 たったひとつの思い出。





「……」





 雫は、小さく笑った。





「……元気かな」




 もう。





 どんな顔だったかも、昔の記憶の中だけだ。




 今の蓮がどんな人になっているのかも知らない。





 背がどれくらい伸びたのか。





 声がどんなふうに変わったのか。





 どんな高校に通っているのか。





 友達は増えたのか。





 ……彼女はいるのか。





「……」





 そこまで考えて。





 雫は少しだけ顔を赤くした。





「何考えてるんだろ、私」





 ポーチを閉じる。





 そして。





 雫は知らなかった。





 あの時。




 「絶対また会おう」と約束した男の子が。





 もうすぐ。




 雫の目の前に現れることを。





 黒髪だった髪は。




 目を疑うようなシルバーに変わっている。




 耳には、いくつものピアス。




 制服は少し着崩され。




 顔には、怪我。




 誰が見ても。




 昔の面影を簡単には見つけられない姿。




 そして。




 彼は。




 ある理由から。




 たくさんの不良たちをまとめる。




 総長になっていた。




 だけど。




 どんな姿に変わっても。




 どれだけ遠く離れていても。




 雫のことを。




 あの日の約束を。




 忘れたことなんて、一度もなかった。