雫には、昔からひとつだけ、大切なお守りがある。
小さな、小さな貝殻。
白くて、少しだけ薄いピンク色が混ざって
いる。
手のひらに乗せれば、すっぽり隠れてしまうくらいの、小さな貝殻だ。
高校二年生になった今も。
雫はその貝殻を、いつも大切にしていた。
普段は、小さなポーチの奥。
誰にも見つからないような場所に、そっと入れている。
そして。
病院へ行く時。
入院する時。
怖い検査を受ける時。
手術を受ける時。
雫は必ず、その貝殻を握る。
ぎゅっと。
小さな手の中に包み込むように。
「……大丈夫」
誰に聞かせるでもなく、そう呟く。
すると、不思議と少しだけ落ち着くのだ。
――大丈夫やって。
もう何年も聞いていないはずの声が。
耳の奥で聞こえる気がする。
――俺がおるし。
「……」
雫は、ポーチの中に入っている貝殻を指先でそっと触った。
「……蓮くん」
その名前を呼ぶのは。
何年ぶりだっただろう。
