愛してるの期限が切れる前に

 両親からの勧めで物心つく前に始まっていた英語塾だったが、小学生四年で辞めた。通うのが面倒くさくなったからだ。
 フラペチーノで喉を潤すと、「それ美味しいの?」と聞かれた。

「うん、一口飲んでみる?」

 絶対に飲まないと知っているから差し出したのに、なぜか今日に限って玲桜は受け取ってしまった。代わりにと自分のアイスコーヒーを持たされる。
 一口飲んで、玲桜は秀麗な美貌を残念なくらい歪めて見せた。
 だったらどうして飲もうと思ったりしたのだろう。
 百花も怖い物見たさにコーヒーを一口飲む。

「うぇ、苦いぃ……」

 わかっていたけれど、独特の苦みとわずかな酸味に舌が痺れた。
 顔を顰めががら互いに真逆の感想を言い合っているのが滑稽で、つい笑ってしまった。
 玲桜も目を伏せて笑っている。

「さっきの話だけど、今度――」
「あ――っ、ほらやっぱりいた! 見間違いなんかじゃなかったでしょっ? レオ!!」

 そこへ、玲桜の声に被さって店内に玲桜を呼ぶ女の声が響いた。
 二人同時に声がした方を見ると、華奢でやたらオーラのある女の人がこちらに向かって大きく手を振っていた。何度か見かけた玲桜と一緒にいるモデルの子だ。周りには数人の男の人もいる。
 愛らしい彼女の顔には、玲桜に会えた嬉しさが全面に出ていた。
 それを見て、百花は急いで勉強道具をしまった。

「もも」
「ごめん、私行くね」

 返事も待たずに席を立つと、俯き加減で集団の脇を足早に通り過ぎた。
 外に出ても、しばらくは動悸が止まらない。
 他人の振りをするのが約束だったのに、一緒にいるのを玲桜の友達に見られてしまった。