愛してるの期限が切れる前に

「勉強?」

 水面を走る波紋を思わせるな清廉な声に、百花の心も揺れた。
 じっと見つめてくる黒い瞳の秘密を、百花は知っている。
(でも、言ってはいけないの)
 百花はストローを咥えたまま頷いた。

「うん。そっちは学校の帰り……じゃないよね。一人なの?」

 珍しいね、という言葉は言わないでおいた。
 この店は百花の通う高校からは近いが、玲桜の大学からは遠い。なにか用事があって、こちらまで足を伸ばしたのだろう。それこそ待ち合わせなのかもしれない。
(彼女とか?)
 二十二歳の玲桜とは、もう九年の付き合いになるが、彼から甘酸っぱい話は一度も聞いたことがなかった。外では何度か玲桜とすれ違っているが、そのときはいつも友人たちに囲まれて歩いていた。やたら顔面偏差値の高い集団の中には、モデルをしてる女の子もいたっけ。

「今、どのあたりしてるの? これ、アイスコーヒー買ったらもらたんだ。ももにあげる」

 差し出されたのは、ドリンク一杯買うともらえるとあるゲームとのコラボ限定アイテムだ。百花も、今日はこれが欲しくてコーヒーショップに立ち寄っていたのだ。
 玲桜は向かいの席に座ると、百花のリュックについているアクリルキーホルダーを見つけた。

「やっぱりそれ目的だったんだ。ももが一人で店にいるなんて珍しいと思ってたんだ。でもその子って、ももの推しじゃないよね」

 長年百花と付き合いのある玲桜は、百花が引き当てた推しの対となるキャラクターを見て言った。

「うん、でもこの子も好きだし。せっかくお迎えしたんだからつけようと思って」